第3話 うらないにて・・

☆ご注意 この物語はです。実在の住所・店舗・人物とは一切関係ありません。 


「へぇーっ H.P・・、だごん・・、クトゥルフ・・、山陰地方の隠し寺があって・・。街ごと教団の裔で・・。今も主神の復活の為に・・。活動しているってーの・・! ホ・ほほっほぉーっ!で・・さらにビックリな事は!この美少女が実は信者達の怪しい儀式で性別を変えられちゃった元男の子だった・・と、・・街ひとつ分の犠牲だけですんだ・・この子だけは両親に逃がされて来たんだ。と!・・おかげで儀式を完了できずに信者が追って来ると!!ハイハイ、ソーデスカ!ソーデスカ!」


すぐ横で「コクコク」と同じ動きで肯定するだけの古いロボットのようなボクの姿を見て、鏡湖キョウコさんはその様子を気にしていないように見せてはいたが話が進むにつれてしだいに表情が強張るのが分かった。


ひと通り話を聞いたカウンターで隣に座る彼女は出る所も出ていて、秋風も吹こうかというのに薄手のニットシャツと一見してミニに見えるキュロットを黒網タイツハイソで締めている。


このカッコで冬でも活動的に近畿中を取材で駆け回るのだろう。

でも、でも!背にブラ跡が無い!上のニットは濃いめのパステルパープルの衿ぐり深いVネック!ややもするとたわわが飛び出てきそうにはち切れ盛り上がっている。ということはあぁぁ・・!

み、見ちゃった・た・・ふ、膨らみの頂点ややはずれにある更なる小さな隆起は鏡湖キョウコさんの・なま・生乳く・び・!


「何、そんなに見られたらいくらでも恥ずかしいわよ。だいじょうぶ、のぶちゃんだってそのうちに育つわよ。お姉さんが保証してあげる、すぐにモテモテになるから。」

(悪いがボクにはそんなモノ無い!男だからなっ!)


ボクはそのマスターの姪っ子さん、奥宮 鏡湖おくのみや きょうこさんの隣でファッションチェックをしながら至近距離の異性?にドギマギしていた。


こうしてボクはマスターの美味いレーコー(=アイスコーヒーと同意)を御馳走になりながらも得も言われぬ良い女性の香りにも当てられて、大人のおんなのカッコよさにもクラクラしていたのだった。


ふと、ボクの視線が気になったのか外ハネ耳かけボブ(アッシュブラウン)をペンを持ったまま掻き上げてから一瞬だけボクに微笑むとマスターに鼻息荒くため息をつく。


「ふんっ!そーですか・・この娘が?ねぇ。伯父様の新しい若すぎる恋人とか、隠し子なんだって言ってくれた方がなんぼか・・。」


「こらっ!おキョウッ人の話は真面目に聞けーっ!伊達や酔狂じゃねーんだ。マジネタで本気であぶねぇんだ。だから今更だが頼み事で連絡する気になった。お前の大学ん時の友達に占いが趣味だってのがいたろう?横丁のお咲さんに『大したちからを持っとるな、若いの。』って言われてしばらく師事していたメガネのひょろっとしたのいただろう。名前なんてった・・真実味じゃねえし、」

こめかみに指先をあて思い出そうとするマスター。

「真見屋、真見屋まみや 真実みのるクンよ。」


それにしても、真面目に怒り120%のマスターを前にしても彼女は全く動じてない、すごいと思うボクならチビってしまいそうだと言うのに・・。


「でもさぁ、ホントに真見屋クン呼ぶほどの事? すぅーーーっ        

 だごん!・だごん!・だごーーーん!!!」

《だごん!・だごん!・だごーーーん》

 《だごん!・だごーーーん》

歪んだやまびこの様な耳障りのわるい嫌なで狭い店内に反響するようにかぶさる、こんなの有り得ない!鏡湖さんの取材用レコーダーからも異様なハウリング音?が飛び出す!

「ギャポーギーヴォーバァアーーッ」


「ば、バカッ!」「うわっ!」「キヤッ!」

マスターもボクも店内の異様な振動に反射的に頭を抱えうずくまった・・・。

が、少し経ったほどか?店内は平静を取り戻していた。

「「・・・・・あ、あれ?」」

ピピピッ チユンチュン しーーーーーーーーーーーーーーん


「神鳴り・・しないわよねぇ!雨も降って来ないわ・・。結構な事ね!ホント、もっといいお話を聞きたかったわ。」


逆隣のスツールに掛けてあったCELINE のLUGGAGE Nano (ベージュ)と BRBY(burberry)のトレンチコート・イズリントン(ハニー)をさらうように片手で取り上げるとボクの頭を優しくひと撫でしてから千円札2枚をウッドカウンターに叩きつけマスターに宣戦布告するように颯爽と立ち上がると大声で叫ぶ。

    

「いいこと!昔のよしみで来てあげたけど、都おばさんの事ではわたしはまだ!あんたを許してないっ!・・なんの冗談か知らんけど・・正直うちは今日はもっとまともな話してくれはる・・思てた。けど、叔父さんがわけ分からへんしょうもない事、しはるんやったらもう二度と呼ばんといてんかっ!」(今日が都おばさんの命日近いって知ってやってるのっ!しかも、娘ほどの女の子とひと晩共にしたですってぇ!バカなの?殺されたいの?何が邪神よ叔父さんのバ~カ!)

ガチャッ! カランコロン! タッ タッ タッ

 

カランコロン バタンッ!


ボクらのあいだに風穴開けて、マスターの姪っ子である鏡湖キョウコさんは憤慨して店を出て行った。さすがにドストレートの作戦なしはダメだろう。ボクだって朝トイレで確認するぐらいなんだ。

(ほんとに生えてこないか?ぜんぶ、夢だったんじゃないかって。)


「このままで・・ええの?マスター」ボクの掛けた声に驚く彼の目には少し光るものがあったと思う。


のぶクンの京都弁、初めて聴いた気がするよ。」


「気を使ってたんだよ、生まれこそあっち(島根県)だけど・・育ちは京都は伏見だよ。だけどボクの設定がさ・・。」


「ぷっくくう~それ、自分で言っちゃうんだ?」


マスターは吹き出したついでに腰の前掛け紐に掛けた和手拭いで顔を撫で涙を拭いた(ようにボクには見えた・・前の事【第一話】もあったんでなおさら奥さんの事で響いてたみたいだ)。


ボクは同じオトコとして武士の情けで気がつかなかったフリをしてあげた。(後で久しぶりに華を・・両親を思い出して泣いた。)


「そうだよ、先代の【便利屋】だったお爺ちゃんとここで初めて出会って、遠縁の子という設定でお互いに納得して世話になって【便利屋】の後を継いだんだ。それまでは見たことも、聞いた事も無い一度も顔を見せたことも無い子供が京都弁をべらべら話す近場の親戚って明らかにおかしいよね。・・なんで近くにいたなら顔を見せない、1度として見たことが無い?店を譲るほどの仲なのに?ってさ誰でも疑うよ。」


ボクはいくらか鏡湖キョウコさんを意識してたのだろうか?


いつものほころびた跡を補修したワッペンだらけの元の白が汚れでグレーになった程の年季の入ったツナギとボクの店にあった大リーグのシアトルマリナーズのキャップで伸びた髪をたくし込んで隠し、今や定番の制服となったそのヨレヨレのカッコで薄いなだらかな丘陵のような胸をできうる限り張ってみた。

当然だが鏡湖キョウコさんに敵うべくもなかったし、今すぐに勝ちたいわけでも無かった。



B⇒

【Auto ReturnⅡ】   「太陽がいっぱい」1965

A⇒



(プルルルルル プルルルルル) ガチャ


真見屋まみやクン、あたし鏡湖キョウコ・・久しぶり。実は・・」

ブツ! ツー ツー ツー 

「なにっ!一体?」いきなり切るって何事よ!


(プルルルルル プルルルルル プルルルルル)


ガチャ「お、奥宮・・か。」

真見屋まみやクン何で切るのよ!?ひっどい声?なに?!風邪でも引いた?」


ザッ・・ザリ・・ザザ・・ザッ・・ザリ・・

「電波悪いわね、どこにいるのよ。」


ザッ・・ザリ・・ザザ・・ザッ・・ザザ・・

「いいか、一度しか言わん。聞けっ!叔父さんの件は止められるんなら止めて全て忘れろ。・・だめなら店とお咲おばあさんとあともう二つカケラが足りん。見えん・・、星見の里を・・俺の実家をたずねろ。【力】を借りれる相手をなんでもいいから探せ、俺は逃げてみるが探すな!・・出来れば・・・お前は来るな!死ぬ」


ブッ ツー ツー ツー ツー ツー

(死ぬってなによっ、でなさいよっ!大学からでも親友でしょう!わたしたち。)


(プルルルルル プルルルルル プルルルルル)


(なんで出ないの?)

「この電話はお客様のご都合により・・・」


(ホントになんなのこの1件は、叔父さんには啖呵切って飛び出して来たけど・・もっと話聞けば良かった。)

「それにしても、こんなコーヒーが1杯1000円-ッ!叔父さんとこと味も香りも深みもコクも金額さえ全然違うーッ!これなら「邂逅」の方が100万倍マシよっ!・・・・・あ。」

ただでさえ若い美しいおんなと言うだけで注目の的なのに・・店の中でそのお店のコーヒー、ディスっちやった彼女は今や何重もの関心の的の中心だった。

ヒソヒソーーーー 

ブツブツーーーー

ジロジローーーー

(あやゃーッ!コーヒーの味はともかく、交通便利で雰囲気いいんでインタビューに最適の1件だったのにぃ~もう当分使えないよ~ッ!)


「それにしても何が起こっているの?コンピュータを使った総合占星術の王とまで言われた占い師界の麒麟児、真見屋まみやクンに・・。金、権力、暴力、少々の怪しい力でも今の俺にはおよそ、対処できないものは無い・・とまで豪語してた彼が。」


どうせ最期ならとビジネスホテル一階のお気に入りのロビーカフェの席を陣取り異様な雰囲気を醸し出しながら必死に旧友に連絡を取ろうとする彼女は遠巻きにされて近づく者は誰一人としていなかった。


 


 後日、烏丸通にある都古みやこ新聞第一編集部事務所に奥宮 鏡湖おくのみや きょうこが出社してきた。

黒革パンプスで闊歩する若いおんなが周囲の知人にはさながら重戦車の突進に見えているらしい。

出勤時の人の波でごった返すロビーも通路もどこでも彼女を避けてくれる。


「おはーーっす!」

「おせーぞ!!お鏡っ《きょう》今度は一体、お前何をやらかしたっ!!警察捜1!から占い師団体まで名指しで電話鳴りまくってんぞっ!ケータイ見ろっ!」

50代の頭のハゲだした、脂ぎったうえに横幅のデカいいかにも編集長然としている、只野ただの鏡湖キョウコを怒鳴りつけた。

言われて鏡湖キョウコはスマホを確認して見ると電池残量は残っていなかった事が判明する。


ただ、今朝に充電器から外したので昨日、叔父さんの店を出て真見屋まみやに連絡をとり繋がらなくなってから3~4度、また話を聞こうと連絡を試みただけのはず?機種としてもそんなに古くは無い筈だが、バッテリー交換の時期だろうか。

 

ジリリリリリリリン ガチャ


「はい、こちら都古みやこ新聞第一編集部。・・はい」

「・・鏡湖きょうこーッ!2番、京都府警の帯刀たてわきさんから~ッ。」

編集部の事務員の女の子が回線をまわす。  


「はい、お電話変わりました。奥宮 鏡湖おくのみや きょうこです。は、はい・・・いいえ・・えっ真見屋まみやクンが・・死んだ。  うそ   いえ すみません。はい。」


それ以後の事は倒れてしまい、彼女にはわからなくなった。

ガシャーーン!

キヤーッ!

「奥宮君!」「鏡湖きょうこーッ!」「大丈夫か?」


琵琶湖のマリーナ内に停泊中のキャビン付きの個人所有ヨット「エターナル・マーメイド」号内で大量の血痕を残して行方不明になった人物の照会が手ごろで馴染みの鏡湖きょうこに回ってきていたのだった。


真見屋まみやクンが・・。」


今編 最終話 【No Return Ⅰ】      

       【No Return Ⅱ】へ続く    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

京都四条大和通り富嶽町 喫茶店「邂逅」 ズバP  @kou1dayo8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ