第24話 俺に任せてほしい

 翌朝、俺たちはタバサの指示で小さな舞台を作ることになった。

 テントは張らず誰でも見れるようにしてある。なんというかサーカスというよりは田舎のちょっとした出し物のステージって雰囲気だ。


 そして始まったお礼ステージでは多種多様な曲芸からイチミリアの猛獣芸など様々な出し物が披露され、大掛かりなステージがなくてもこんなにも人々を魅了することができるんだなと俺は目を瞠る。

 しかもタージュは軽業、ナイフ投げ、手品と何でも御座れだ。これで新入りだなんて村人は誰も思ってないだろうな……。

 村には事前に宣伝が行き渡っており満員御礼、俺は裏方としてあっちこっちへ行ったり来たりすることになった。

 タバサの指示が細かいのにわかりやすくて、サーカスのことを把握しきっていない俺でもそれなりに働けたのだから凄い。やっぱり座長にはこういうスキルが大切なんだろう。


 休憩時間に入り、皆で一息つきながらタバサとイチミリアが握ってくれたおにぎりを頂く。団員全員分あり、具の種類が十種もあるらしい。ちょっとしたクジ気分で楽しかった。

「シロさん何でした? オレおかか!」

「こっちはツナマヨですね」

「あ、それイチミリアさんの好物だから多分大当たりとして入れてますよ」

 タージュが俺のおにぎりを指して人懐っこく笑った――のとほとんど同時だったろうか。

 村の反対側から何人かの村人が慌てた様子で走ってくるのが見えた。俺たちが休憩スペースから不思議そうな顔を覗かせていると、観客席で各々まったりと休憩していた村人たちも騒がしくなり慌て始める。

「あんたたち、一旦宿の方に逃げな」

 村人から事情を聞いたらしいタバサが団員たちにそう言う。


 どうやら村単位で強奪を繰り返している盗賊団が現れたらしい。今は村の出入り口でお得意の『交渉』を村長相手に行なっているそうだ。

「交渉……?」

「この村一番の手練れとフードファイトして、俺たちが勝ったら金目の物を寄越せってやつだ。盗賊の常套手段さ、守らない場合は勝手に貰ってくって言うだろうね」

「そんな、ここじゃ武力行使なんて無いんじゃ……」

「ブリョクコウシ?」

 そんな単語初めて聞いたって顔をされてしまった。

 動物相手なら狩りもできる。それは力を振るえるってことだ。でも人間相手だとやっぱり暴力でどうこうするっていうのは頭から抜け落ちているらしい。


(ほんと不思議な世界だな……)


 でもそうすると盗賊団も力ずくでどうこうって話ではないんだろうか。

 そう思いながら話を聞いていると、どうやら人間以外のもの……たとえば生活に必須の井戸、住宅などを壊したりはできるらしい。あとは家畜を攫ったり、外傷を与えないようにしながら人間を攫うこともあるそうだ。

(どうせならこういう物騒な行為も禁止しといてくれないかな、不思議な世界さん……!)

 何にせよこのままでは村人が困ることしかない。

 村一番の大食いは現在風邪を引いているらしく大ピンチだ。――頭を突っ込むのはもしかするとサーカスの皆に迷惑をかけてしまうかもしれないが、俺は見て見ぬふりをすることができなかった。

 だってここで目を逸らすような奴がコムギを助け出すことができるだろうか。

「……座長。俺、そのフードファイトを肩代わりしたいんです。許してもらえませんか」

「シロが、かい?」

「村一番の手練れって村人に限るってことじゃないですよね。余所者なんで難しいかもしれませんが……」

 タバサはタージュ経由で俺が王族にもフードファイトで勝ったことを知っている。

 しばらく考えた後、未だ対応を悩んでいる村人たちを見遣るとタバサは頷いた。

「わかった、あたしから掛け合ってみよう。ただ無理でも恨むんじゃないよ」

「……! ありがとうございます!」



 タバサ、村人たち、村長を交えてしばらく協議した結果、やはり村に関係のない人間に任せるのは不安が大きい――ものの、村には他に大食いに長けた者がいないため俺に任せてくれることになった。

 引き続き出し物に使うはずだったステージを利用してフードファイトの場を整えていく。

 周囲には村人たちの不安げな顔、顔、顔。


(……この不安を取り除くためにも頑張らないとな)


 俺はそう心に決め、盗賊団の代表であるむさ苦しい男を睨みつけた。

 料理は各店が取り急ぎ作ってくれている。それが到着したらフードファイト開始だ。


     ***


 お昼を少し回った頃。


 王都レイザァゴにある城内で私――アメリアはメイドとしての大仕事を任され緊張に体を強張らせていた。

 なんでも第二王子の連れてきた要人がしばらく滞在するので、世話係をしてほしいらしい。ただのお世話なら任せてください大丈夫バッチリです! と大声で宣言するところだけれど、世話係抜擢の際に伝えられた条件がひとつ。


 見聞きしたことは他言無用、もし如何なる理由であっても外へ漏らした場合は相応の罰を与える。


 ……と、そんな条件だ。

 怖い。怖すぎる。でもお城で勤めることを喜んでくれたパパやママに心配かけないためにも頑張らないと。

 カチコチになりながら通された部屋は個室というには広すぎる部屋で、奥には天蓋付きのベッドが見える。ただ不思議と窓が丁寧に封鎖されていた。

「アメリア、ここが明日からお前の持ち場です。マニュアルは別途用意しておきましたからよく読むように」

「マニュアルですか?」

 ここへ案内してくれたメイド長を見上げて首を傾げる。

 要人のもてなし方はすでに学んでいるはずだ。

「特殊な条件が多いのです。マニュアルには深く詮索しないというのも含まれていますよ」

「は、はい」

「今日はまずご挨拶を。さあ」

 メイド長に促され、私は部屋の中へ一歩進む。


 ――じつはずっと気になっていた。

 ベッドの上に誰かが座っているシルエットが見えるのだ。天蓋の幕が下ろされているため細部はよくわからないが、女性らしい。同性ということで少しホッとしながら進んでいく。

 なんでもその要人はここからほとんど外へ出たがらないらしい。

 食事も細々としかとらず、では環境を変えてみようということで似た年頃の私が新しい世話係に抜擢された、という話をメイド長が話す。

(なんだか不思議な話だけれど……お食事が口に合わなくて怒ってるのかな?)

 お城の食事はメイドへのまかないですら美味しいものなのに、と思いながら天蓋の幕越しに声をかける。

「お、お休み中のところ申し訳ありません。本日っ……じゃない、ええと、明日から新しい世話係を任されましたアメリアと申します!」

 早速ミスしまくってしまった。

 後悔していると幕がゆっくりと捲られ、ひょっこりと女の子が顔を覗かせる。


 それは、褐色の肌と黒い髪を持つ普通の女の子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る