拾参

「わかったよ、沙夜。ちゃんと話すから。……でも、これは陽平達にも一緒に話さなきゃいけねぇんだ。だから、まずは皆を集める迄、ちっと待ってくれ」


 校門の前でいつまでもやり取りを続けるのは決して得策ではない。

 そう判断し、俺達は適当な空き教室を見つけてそこに引き籠った。

 沈んだ表情の美衣子は座らせて、代わりに俺と沙夜で手分けして他の連中を呼び出す。

 俺達全員一限の授業をとっているが、此方の緊迫感が伝わったのか、皆快く二つ返事で集まる事を了承してくれた。


「おはよう」


 まず初めに俺達が待つ空き教室に姿を現したのは、れんだった。


「よぅ。悪ぃな、呼び出して」


「いや、もう来てたから、別に構わないよ」


 全員を代表するように、入口に一番近かった俺が声をかければ、いつも通りの涼しい声が返ってくる。

 俺達は話し合いが行いやすいように人数分の椅子を並べているところだった。

 状況を察したのか、蓮は余計な質問をせずに、作業に加わる。

 そのまま全員が閉口した状態で六脚椅子を円形に配置し、俺達は適当に席につく。

 美衣子の隣に付き添い人のように俺が座り、沙夜の隣に蓮が座った。

 俺達四人は向き合うような格好になり、二つ跳ばしに空いた席には、自動的にまだ到着していない陽平と涼子が座る事になる。

 隣にいる美衣子は、大学に着いてから完全に浮上しかけていた気分が沈没し、ひたすら自身の足許と見つめ合っていた。

 向かいに座る沙夜は、残りの二人の到着にやきもきしているのか、携帯と扉を交互に見ている。

 俺と対称の位置にいる蓮は、まだ状況を理解しきっていないのか、落ち着いた様子で、窺うように俺を見つめていた。

 そして俺は、これから行われる話し合いの議長になる事を予期して、頭の中のごちゃごちゃした言葉の群れを並べている。

 それぞれの挙動は違えど、皆一様に押し黙っているところは同様で、まるで通夜の席のような雰囲気だった。


『そやっ!』


 しかし、そんな沈黙の帳は易々と崩れた。

 いや、皆の沈黙はまだ重い雰囲気と共に続いている。

 崩れたのは俺の中だけの話だ。

 ぱんっと、心臓に悪い手を打つ音と共に、今まで黙っていたイナリが声を上げたのだった。


『なぁなぁ、暁?この前ワイがお前に言おうと思うて忘れてた事思い出したで!』


 間の抜けた声を出すイナリに、答えてやるわけにはいかず、僅かに視線を向ける。

 イナリは、喉元に詰まった小骨がとれたような、まるで場にそぐわない顔をしていた。

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