弐拾伍

 室内では、煌々と点けられた電灯にたかっているかのように、天空、地陸、イナリがふよふよと漂っていた。

 ビクリ、と美衣子が腕の中で突然身を固くする。

 丁度例の部屋を仕切る扉の所迄来たところだった。

 きっと、あの生々しい手形を思い出したのだろう。


「大丈夫」


 俺は、本日だけで何度繰り返したかも分からない同じ言葉を言った。

 そして、関所でも通るかのように慎重に、美衣子を連れ、少し前までびっしりと血痕のように赤い、人間の形こそしているものの決して人間のものではない手形が付着していた其処を、潜り抜けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る