眠れぬ夜、集まる朝。
壱
「お祓い……効かなかったの?」
ぐったりとベッドにもたれかかった美衣子は、本当に消え入りそうな声で呟いた。
「効かなかったわけではありません。有村さんの身体は今でもきちんと浄められています。だるさを感じているとは思いますが、邪気に当てられてしまっただけなので、暫く休めば楽になります」
尊さんは、美衣子の視線に合わせるようにしゃがみこんで、ゆっくりとした口調で説明する。
だが、そう言う尊さんも大分疲労の色が濃い。
淡々とやるべきことをこなしているように見えるが、その都度神力を消耗しているのだろう。
そんな二人のどちらに対しても何も声をかけてやれない俺は、せめてお茶でも淹れようと立ち上がった。
「美衣子、ちょっとキッチン借りるよ」
「うん……」
一応、断りを入れるも、やはり返ってくる返事は力無い。
本当は、置いてる場所なんかを聞きたいところだが、それは酷な話だろうと、一人席を離れる。
とりあえず、目についたコーヒーでいいかと、人数分のカップを取り出す。
背を向けた部屋からは、思わず耳を背けたくなるような悲痛な会話が続いていた。
「有村さん、このようなことになり、申し訳ありません」
「…………」
「直ぐに有村さんの仰有っていた場所に行って、根本から祓うべきでした」
チラリと背後に視線をやると、尊さんは深々と頭を下げていた。
本来美衣子が希望したのは、自身の身を祓う事だ。
なので実際のところ尊さんに非はない。
しかし彼女は言い訳をするでもなく、素直に謝ってみせた。
霊能者は決して全能ではない。
間違いを犯すこともあれば、分からないこともある。
けれど俺達のような一般人は、特別な力があるというだけでついつい神様であるかのように崇めてしまう。
でもそれは間違っている。
いくら霊能者でも、神子でも、視えないものは視えないし、分からないものは分からないのだ。
メディアで騒がれている霊能者と言われる人達は、今の尊さんのように素直に非を認めることはないだろう。
それ故、その言葉の信憑性は疑われ始め、一握りの真実でさえ掻き消されてしまう。
同時に、信じてしまった者は嘘や間違いでさえ崇めて、真実にしてしまう。
けれど、今の尊さんはそんな俺達の気持ちすら汲み取って、一握りの真実を消さない為に、自身の非を謝っていた。
俺が珈琲を淹れ戻ってくると、一通り謝罪を終えた尊さんは、まだ気だるそうにしている美衣子に、おずおずと口を開いた。
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