ピンポーン!!


 臍を曲げたイナリを宥めていると、景気良くインターホンが鳴り響いた。

 日頃この部屋を訪ねて来る者は殆どいない。いたとしても勧誘か請求ばかりなので、無視を決めこんでいる。

 しかし、今のは十中八九美衣子だろう。


「おい。ゲーム、セーブして、すぐ消せ」


 玄関へ出向くために立ち上がり、声を掛ける。だが、イナリは止める気配がない。


ピンポーン!!


 再度インターホンが鳴らされる。


「おいっ!イナリ!離れるから消せって」


『わーったっちゅーねん!もうちょい待ちぃ』


 俺がリセットボタンに手を伸ばすと、危機を察知したのか、やっと返事が返って来た。しかし――――――


ガチャッ


「あっきぃ?」


 約束していたのに反応が無いからか、鍵を開けておいた戸を開いて、美衣子が入って来てしまった。

 俺はイナリのセーブ待ちをしつつ、玄関へ続く扉を開いて立っている状態。

 俺の部屋はワンルームで、はっきり言って狭い。キッチンと部屋を仕切る戸を開け放ってしまえば、玄関から部屋全体が見渡せる。

 そして、視えない人からすれば、俺の背後では誰も触っていないはずのコントローラーが勝手に操作されているわけで――――


「うわぁぁっ!!」


バッ!!


 ゲームのリセットボタンに飛び付くか、はたまた戸を閉めるか、刹那悩み、俺はその場でラジオ体操でもしているかのような不自然な体勢で誤魔化そうとしていた。

 何やってんだ?俺は……


「あっ、あっきぃ?どしたの?」


 俺の奇っ怪な行動に、美衣子は半笑いのような中途半端な顔をしていた。

 もう完全に変な奴決定である。


「やっ、やぁ、美衣子!さぁ、買い物に行こうか!」


 心の中で自分のあまりの愚行っぷりに泣きながら、半ばやけくそ気味に誤魔化しを続行する。

 チラリとテレビへと目をやれば、“セーブが完了しました”という文字が画面に表示され、コントローラーはフローリングの床へと投げ出されていた。

 どうやらなんとかギリギリ間に合ったようである。


「あのね、私パウンドケーキ作ったんだ。良かったら一緒に食べたいんだけど……上がってもいい?」


「あ、ああ。別に構わないケド……」


 正直、家に留まり続ければイナリがまたやりかけのゲームを気にしてうずうずしはじめるかもしれないのでゆっくりしていたくはない。

 しかしわざわざ土産迄持参してきたというのだから、無下にするわけにもいかなかった。

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