「うんにゃ。今日はない」


 俺は、一応コンビニでバイトをしている。シフト制なのだが、仕送りもあるので最低限しか入っていない。いかんせん面倒くさがりのため、休みの日とかに長時間入るという感じにしていた。


「じゃあ、今日はお休みなんだ?」


「まぁ……」


 休みなのは確かだが、昨日に引き続きイナリを連れてまた尊さんに会いに行こうかと考えていた。イナリとの付き合い方なんかも詳しく聞きたかったし、猫神を交えて話せた事をあんなに感謝してくれたので、素直に俺も会いたいと思えた。

 だが、この間の神社にちょくちょく通うことにしましたと言うわけにもいかず答えに窮する。


「それじゃあ、この間のお礼に今日ご飯食べに行かない?奢るからさ」


「えっ?あー」


 肩口から「今日は神社に行く約束だろ!」というイナリの視線がしっかりと刺さってくる。

 だが、美衣子も、言葉を濁す俺に、斜め下くらいの角度から不安げに睨め上げてくる。


「あぁ。分かった」


 気が付いた時には、勝手に口が承諾していた。

 負けた……恐るべし女の45゜目線……

 チラリと横に目をやれば、人の気も知らず、イナリがこちらをジト目で見ていた。


『・・・・・アホツキ』


 耳元でボソリと呟く声がする。

 しかし、一度承諾してしまった以上、今更断る訳にもいかない。

 ましてや、美衣子は文字通り飛び上がって、瞳をキラキラさせて喜んでるし。


「じゃあ、学校終わったらあっきぃん家行ってもいい?」


 美衣子は、嬉しそうに早速予定を決め始めると、「ねっ?ねっ?」と同意を求めてくる。


「分かった。了解」


 それに対して俺は、ひきつり笑いを浮かべるしかなかった。





 「だーーからっ!悪かったって!」


 放課後。

 自宅へと戻った俺は、あれからずっとだんまりを決め込んでいるイナリへと声を張り上げた。


『……』


 イナリはチラリと此方を見たものの、直ぐに視線を逸らす。

 そして俺が機嫌とりの為に触らせてやったテレビゲームへと集中してしまった。


「ほらっ、約束通りゲームやらせてやっただろ?機嫌直せって?」


 俺は降参とばかりに小さなイナリの頭に手を伸ばしガシガシと撫でる。

 するとイナリはコントローラーから手を放すことすらせずに俺の手を逃れ一言ボソリと


『油あげ』


「わーった。帰りに買ってやる」


 本当にこうして不貞腐れていると子供のようだ。


『ホンマやな?二袋やぞ!二袋!!』


「はいはい」


 再三の説得のかいあり(?)なんとかイナリは機嫌を直してくれたようだった。

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