「でも、せめて夜は寝ろよ」


 寝なくても平気と言う話だが、イナリが寝ている所は既に目撃済みなので、それも食事と同様、寝れないことはないというのは解っていた。


『えー、別にええやん。暁が大学にいる間とか幾らでも寝れるんやし』


「駄目だ。お前煩ぇから俺が寝られねぇ。じゃなきゃ油揚げは無しだ」


 イナリは勿論とばかりに反論するが、俺もそこは譲れない。

 睡眠の充実は人生の充実に直結していると俺は考えている。

 それに、今朝みたいに悪戯されて部屋を今以上に散らかされるのも面倒だし。


『えー、じゃあじゃあっ、あの“げーむ”っちゅーの?あれ、やらしてぇな!?そしたら大人しゅうしとるさかい。あれ前々からおもろそうやなーと思っとったんや』


「ゲームすんのは構わねぇけど、夜中ずっとやるのは駄目だ。電気代が嵩む」


『えー、ケチくさー!』


 イナリはどうしても寝たくないとばかりに駄々を捏ねる。

 だがそこは共同生活。

 しかもスポンサーは俺なのだから、そのくらいは理解してもらう。

 俺がこれ以上議論は無しとばかりに、黙っていちごみるくを喉に流し始めると、イナリは渋々ながらも小さく「分かった、ちゃんと寝る」と了承した。

 なんだかんだと面倒な奴ではあるが、俺はこいつのこーゆーところが結構気に入っている。


『なぁ、さっきの娘達は来ぉへんの?』


「あぁ。食後のこの時間は大抵別行動」


 別に団体行動が嫌いなわけでもないが、食後はこの場所で独りリラックスタイムを満喫するのが癖になっている。


『ほなら、毎日ここにおる時は喋ってもええっちゅーこっちゃな!』


 イナリは、喋れない事が余程苦痛なのか嬉しそうに言った。


「まぁ、時と場合によるケドな」


 あんまり嬉しそうにするもんだから、俺は適当に水をささない程度に釘をさす。

 しかし、時と場合は直ぐにやって来た。


「あっきぃ!!」


 美衣子が何やら嬉しそうに走り寄って来る姿が、呼び掛けと共に視界に飛び込んでくる。

 反射的に俺とイナリは口をつぐんだ。


「やっぱりここにいたっ!ちょっといいかな?」


 一言断ってから、俺の横へと腰をおろす美衣子。走って来たせいか、僅かに息を弾ませている。

 然り気無く、美衣子に潰されないよう、イナリが肩の上へと戻って来る。


「どうした?」


「うん。あのさぁ、あっきぃは今日バイトの日だっけ?」


 美衣子の表情は二日前に此処で話した時に比べ、何倍も晴れやかだった。

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