弐拾捌
うわぁ、更に天然オプション付きだよ、この娘。
天空猫神は尊さんの背後で大きくため息を吐いていた。
彼女に危害を加える気はさらさらないのだが、こんな漫画みたいな美少女を主にもっている猫神達は苦労していることだろう。過敏になっても仕方がない。
俺も携帯を取り出し、アドレスの交換をする。彼女のアイコン画像は、天空猫神の依り代の駒猫だった。
「何か新しいことが解ったらいつでも連絡してよ。俺、かなりの割合で暇人だから」
頃合いを感じて、「それじゃあ」と踵を返す。
すると尊さんは、猫神達に待っていてと告げ、そのまま俺に合わせて歩き始めた。
石段を下り、白い鳥居が頭上に迫る。
「拓真さん」
俺が「ここまででいいよ」と声をかける前に、猫神達には聞こえないような小さな声で、前を向いたまま声をかけられた。
「猫神達はやっぱり神様なので、もの凄く長い年月を生きています。その間には祖父を含めた沢山の人達が亡くなっていくのも見ていた筈です」
毎日のように何度も上り下りを繰り返しているからこそだろう。薄闇の中でも、彼女は足下を確認する必要もなく、遥か彼方、宵闇を見つめて、話していた。
「きっとそれは、いくら神様だと言っても寂しくて悲しいことだと思います」
まるでそこが境界線であるかのように、白い鳥居の一歩手前で尊さんは歩みを止めた。石段を踏み外さぬようで手一杯な俺は、彼女が止まったことに気付かずに二歩、三歩前へと進んでしまう。
たった一人で舗装されてはいるものの土がむき出しのままの小路に放り出されて、隣に彼女がいなくなったことに気付き、振り向く。
彼女の白い透き通るような肌は、点々と設置されている道標代わりの灯りに丁度照らされ、神秘的で神々しく見えた。
「だから……こうして一人でも多くの人と触れ合える事はいいことだと思うんです。いつか別れが来るとしても唯一人の主に従うだけじゃなく、沢山の思い出があったほうがいいはずだって……」
尊さんは、淋しそうな、それでいて親愛の篭った視線を石段の上にいる猫神達に向けていた。
意味ありげに肩の上の狐の尻尾が俺の頬を撫でる。
「羨ましいって、言って下さいましたよね?」
「え?あ、あぁ、うん……」
「……私は、神子として選ばれたことを嫌だと思ったことはありません」
何と声をかけていいか判らなかった。そこに立つ自分より年下の彼女が、神々しくすら思えて、声をかけることがおこがましくすら感じた。
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