弐拾仇
俺が何も言わなくても、独白のような彼女の話は続いた。
「小さい時には猫神達を兄妹のように思ってましたから、寂しい思いをすることはありませんでした。例え他の人には視えなくても、猫神達は傍にいてくれましたし、私が泣くようなことがあれば必ず慰めてくれました。神子の力を授かったからこそ、私は猫神達に出会うことが出来ました」
「…………」
「それに、祖父のことも尊敬していました。有り得ないって思われるかもしれないんですけど、私、10歳の時からずっと祖父がお祓いとかでどなたかの家を訪ねたり、企業の依頼とかで曰く付きの場所に出向いたりする時、ついて回っていたんです。怖い思いをすることもありましたが、自分もいつか猫神達と一緒に祖父のように誰かを救うためにと思えば、逃げたいやめたいと思うことはありませんでした」
「…………」
地陸猫神が俺達が見ていることに気付いて、全身を伸ばしてこちらに手を振ってきた。白い上に猫にしては大きい体躯の地陸猫神は、暗い中でも目立っていた。
尊さんは軽く手を挙げ、振り返す。
「でも、猫神達はどうなんだろうって……本当は私じゃなくて祖父ともっと一緒にいたかったんじゃないかって……私にとってあの子達はかけがえのない存在だけど、あの子達にとって私は、悠久の時の中の一瞬の出来事、何人もの神子の中の一人でしかない。それなのに、あの子達を視て、話すことが出来るのは私しかいない」
「…………」
天空猫神は地陸猫神のように手を振ったりなんていうお茶目な動きはしなかった。それに茶色地の毛は闇に馴染んで、地陸猫神程しっかり視認は出来なかった。
けれど、翡翠色の光る二つの眼は、主の帰りを待ち、決してそこから動くことは無かった。
「それが一番私にとっての不安でした。神子としてなのかもしれないけれど、あの子達はこんなにも私に沢山の想いを注いでくれているのに、私はあの子達の想いに見合うだけのことをしてあげられるのかなって……」
「…………」
いつの間にか、猫神達への呼称が「あの子達」へと変わっていた。
尊さんの口から紡がれる「あの子達」はまるで本当の我が子を呼ぶように暖かみに満ちていた。
「……だから、嬉しかったんです。拓真さんが羨ましいと言って下さって。私達は人から羨まれるような関係に視えるんだなって思えて。私があの子達と一緒にいることを認めてもらえたみたいで……」
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