弐拾陸
「有村って、ああ美衣子の事か……」
名前呼びが慣れてしまって、一瞬合点がいかなかった。
だが、よくよく考えれば互いに共通の知人と言えば美衣子しか考えられない。
どうやら、今日は色んなことに驚き過ぎて脳みそが完全に麻痺して鈍くなってしまったようだ。
いや、元々か……
「実は、少し嫌な予感がしたんです」
「嫌な予感?」
「はい。昨日申し上げた通り、彼女に視えたのは何らかの霊障による身体的不調と、不調の原因と思われる残骸だけでした……でも、猫神達が僅かに強い念を感じたような気がしたと……」
尊さんは言いづらそうに言葉を濁す。
「でも、昨日の帰りは調子良さそうだったぜ?スッキリした顔してたし」
「………………」
俺が切り返すと、尊さんは困った顔をして、上手く説明出来ない様子で黙ってしまった。
代わりに天空猫神が後を引き継ぐ。
『確信ではないが、もしかすると昨日の祓いや護符だけでは事足りぬかもしれんという事じゃ。何より残っていた残骸が薄過ぎて本体がなんだったのかいまいち判らん』
「本体って、それは肝試しで……」
『じゃあなんで残骸だけが残っていたんじゃ?本体はどこへ行ったんじゃ?』
「そりゃあ……」
言いかけて口ごもる。答えが判らなかった。尊さんですら判らないと言っているのだから俺が判るわけもなかった。
『肝試しに行ってとり憑かれた……それがなんともしっくり来ん』
天空猫神は溜め息を吐く。
『本来なら、一度霊が憑いた場合そう簡単に離れる事はない』
『暁みたいに低級でも神様が憑いてたりー、憑かれてから大分時間が経ったりー、お祓いをしたりしない限りはねー』
『あの娘に憑いていたのは神ではない。それに肝試しに行ったのは一週間前。祓いをしてないからこそ此処に来た。ならば何故残骸しか残ってない?』
「じゃあ、原因は肝試しじゃないって事か?」
『そうとは限らんがな。若しくは憑いてい続けられない理由があったとかな』
「でも、結局残ってたのは残骸だけだったんだろ?それも祓ったわけだし、なら問題無いんじゃないか?」
『まだ分かんないよー?また彼女狙われるかもしんなーい』
暢気な口調でサラリと物騒な事を言う。
「どういう事だよ!?」
『そっかー、暁は視えてただけで本当に何も知らないんだねー。御霊って言うのはねー、念の強さ、想いの強さで存在の強さが違うんだー』
地陸猫神は俺の周りをぐるぐると回りながら、詠うように告げる。
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