弐拾伍
二日連続での見送り。
今日はあの神主のおっさん、もとい尊さんのお父さんの姿を見る事は無かった。
「こんな遅く迄悪かったね」
陽はとっぷりと暮れ、先程迄見えていた夕陽は完全に姿を隠してしまった。
「いえ、こちらこそ。お土産迄頂いちゃって……」
丁寧に頭を下げる尊さんだったが、少し離れたここからでははっきり表情が判らない程の明るさになっていた。
『暁ー、また煮干しヨロシクー』
猫神達も相変わらず重力に逆らってその辺に浮いている。
「はいはい。つーか家族とか心配してんじゃない?」
時刻は午後八時、俺が来たのが五時くらいなのでかれこれ三時間くらい居座ってしまった事になる。
幾ら家の敷地内だと言っても、若い女の子をこんな時間迄屋外に引っ張り出していたのはまずかったかなと反省していた。
「大丈夫です。それに多分拓真さんが来なかったら私寝ちゃってましたから」
そう言って、暗がりの向こうから苦笑するような雰囲気が伝わってきた。
つられて俺も苦笑する。
どうやら今日のように神力の充電だか、陽なたぼっこだかをしているうちに寝てしまう事がよくあるようだった。
「あの……これ良かったら持って行って下さい」
尊さんは自分の腕にしていたブレスレットのような物を外して差し出す。
「これは?」
それは麻の紐が編まれた物に水色の石が三つ組み込まれた物だった。
「護符です。先程のように稲荷様に叩かれたら痛いでしょうし……」
確かに、姿が視えるようになり、互いに触れられるようになったのはいいが、狐に再び危害を加えられるのは心配の種だ。
寝ている時や、周りに人がいる時にポカポカ殴られるのはたまったもんじゃない。
「いいの?貰っちゃって?」
「はい!私は何も力になれませんでしたし。趣味で作ってる物なので、また作れますから。おさがりで申し訳ないんですけど……」
「じゃあ、御言葉に甘えて……」
俺は貰ったブレスレットを腕に付ける。
「その石はターコイズです。魔除けの作用がある石と言われています」
ブレスレットは、青い石も素っ気なく、チャラチャラしている感じもなくて、センスが良い。
「稲荷様を含め、何者かが拓真さんに危害を加えようとすると効果を発揮すると思います。あっ、でも普通に触れたりする分には平気ですよ」
「へぇ~、助かるよ。有難う」
改めて礼を述べ、試しとばかりに狐を撫でてみる。
確かに狐はただ擽ったそうにしているだけだった。
「それと……昨日の有村さんの件ですが……」
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