拾肆


「あー、えっと……なんで俺に憑いたのか、理由が知りたいです」


 まだ神子になったばかりで自分を卑下している彼女になんとか自信をつけてもらうためのお願いはないかと、無い頭を捻り、絞り出す。

 すかさず天空猫神の反応を伺う。

 キジトラ柄のそいつは、駒猫の石像同様、美しい姿勢で鎮座したまま、二度深く頷いた。

 どうやら、このお願いは正解だったらしい……


「どうして稲荷神様が拓真さんに憑いているのか、その理由をお聞きすれば良いんですね!?」


 尊さんは途端に目を輝かせ、「わかりました」と嬉しそうに頷く。


「うん、何にせよもし俺に原因があるなら、知っておきたいし。まぁ、本当は君の猫神様達みたいに、俺にも視えて直接話が出来るんなら手っ取り早いのかもしんないケド……」


 尊さんのキラキラした目線に圧され、俺はまたしても、ペラペラと余計な言葉まで付け加えてしまう。

 あ、天空猫神に舌打ちされた……


「いやっ、じゃなくて、そのっ……視えさえすれば、謝れたりとか、供物を渡したりも出来るんじゃないかなーなんて……はは」


 誤魔化すように空笑いして冗談めかすが、もう遅い。

 尊さんの手が口元へと動き、思案するように長い睫毛が伏せられる。


「直接ですか……」


 天空猫神が溜息を吐き、ジト目へと変わる。


「いやっ、嘘です!理由さえ知れれば、僕は満足です!」


「???」


 なんか、いくら神様だとは言え、見た目猫に一喜一憂して振り回されてると思うと惨めだ。

 ころころと言い分を変える俺に、尊さんは思案を止め、目をパチクリさせている。

 忠義に篤い天空猫神は守るようにそっと尊さんの膝の上へと移動する。

 呑気な地陸猫神は、人間と同じような姿勢で腹を見せ足を開いて座り、円い眼でこちらを見ている。

 なんか、彼女とこの二匹を見ていると……霊が視えることへの嫌悪とか、周りに変な目で見られたくなくて隠してきたこととか、マイナスにばかり考えてきたことがただ俺が色んなことから目を逸らしてきただけだったんじゃないかという気がした。


「まぁ……俺は君の苦労とか知らないから言えることなんだろうケド、君達みたいな関係って羨ましいなぁって……」


 一度言ってしまったことだ。「やっぱいいです」なんて言ったところで、言った言葉が取り消せるわけではない。ならばいっそのこと、正直に、思っていることを言ってみようと思った。


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