拾壱


「お供え物か……」


 一人暮らしの貧乏学生が勝手にその辺に社を建てるわけにもいくまい。そうなると方法は、神棚一択になる。

 イメージしてみる…………いや、無理だな。設けられないこともないが、賃貸の部屋に勝手に穴開けて棚を作るわけにもいかないし、狭い部屋にお供え物を常時置いておくスペースを設けて、神様を祀っていくなんて言うほど簡単ではない。唯でさえ祟られているらしいのに更に怒らせるような結果になってしまうような気がする。


「……出来ないかもしんない」


「お祀りするのは難しいですか?」


「あー、まぁ……一人暮らしなんだ。だから無理っていうわけじゃないけど、家を空けることも多いし、部屋も広くないからさ。その、……ついつい忘れて更に祟られる結果になりそう……」


「そうですよね……拓真さんはまだお若いですし、難しいですよね……」


 いや、君の方が若いでしょ!という突っ込みは勿論飲み込んだ。本当なら、言い訳だろと一蹴されても仕方ない言い分をこうして共感してくれているのだから。

 尊さんは、いきなり自分のとこの神様を鷲掴みにするという失礼極まりない登場の仕方をしてみせた大して面識があるわけでもない男に対して、こうして親身に、一生懸命考えてくれている。こんな顔だけに止まらず性格まで美しい、真なる美少女が存在するなんて……天然記念物より珍しいかもしれない。


「でも……同化している以上、拓真さんにお祀りしてもらうぐらいしか……」


 困り顔で、口元に手を当て、悩まし気にうーんと首を傾げている尊さん。

 対して、自分から吹っ掛けておいて自ら考えることはせず、彼女の言葉を待つ俺。

 ………………なんか、申し訳なくなってきた。


「その……祓うことはできないの?」


 これ以上彼女を困らせるのも忍びないと、おずおずとそう言ったのだが、何故か尊さんの表情は更に困ったような険しいものになってしまった。

 面倒くさそうに視線を逸らしてゆっくり味わうように煮干しを食べていた天空猫神も、卑しくも煮干しの袋に頭を突っ込んでいた地陸猫神も、ギロリと睨むようにこちらを見た。

 え?……何かまずいことを言ったか?神様を祓うなんて不届き者とかってことか?

 いや、昨日猫神達だって、俺の後ろの奴を相手にしたいとかなんとか、そんなようなことを言っていたはずだ。


「それは……出来ません」


 猫神達に睨まれたことに動揺し二の句が継げずにいると、尊さんは姿勢を正し、きっぱりとそう言った。

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