拾弐
「正直申し上げると、今の私では祓ってさしあげる事が出来ないんです」
真っ直ぐにこちらを見、そう言った尊さんは、凛としているものの、どこか少し悲しそうだった。
「え、でも、昨日、ちゃんとお祓いしてくれてたんじゃ……」
どうやら、余計なことを言ってしまったのだと理解しつつ、取り繕おうと更に言葉を重ねて、それが追い打ちをかけるような言葉だったのだと言ってしまってから理解する。
とうとう尊さんは肩を落としてしまっていた。
猫神達の視線が更に厳しいものになる。
「実は私、昨日が初めてだったんです」
「……えっと……それは……どういう……?」
「私まだまだ神子としては半人前なんです」
尊さんは伏し目がちにぽつりぽつりと説明を始める。
「……猫神達は、代々若宮家に生まれる特別な力を授かった者に受け継がれてきています。それが神の子と書いて、神子」
俺はそれを頷きながら黙って聞く。
「勿論若宮家に産まれたからといって必ず神子になるわけではありません。実際、父は神主ですが、神子ではありません。神子が産まれる事のほうが稀な事なんです」
ゆっくりと、伝わり易いようにと言葉を選びながら、尊さんは話してくれた。
「私の前の神子は私の祖父で、本当に素晴らしい神子でした。豊富な力を持ち、多くの人を助けている姿を私は幼い頃から見ていました。けれど、先日亡くなって……私が神子を引き継ぐ事になりました」
一際悲しそうに顔を歪めた彼女に、出逢ったばかりの俺なんかがかけられる言葉はなかった。
きっと彼女はお祖父さんが大好きだったのだろう。けれど、受け継いだ役目の重さに、死を悼む暇も無かったのかもしれない。
ブレザーの制服の制服に身を包み、俯いて話すその姿は、正にその年頃の女の子そのもので、彼女が不思議な力を持っている風には全く見えなかった。
「昨日初めて祓いの儀に挑みましたが、やはり祖父には全く及びません……けれど、若宮神社を訪ねて下さる方々は、今までの若宮神社の評判に期待し、本当に思い詰めていらっしゃっているんです。そんな方々に経験が浅いから等と言い訳するわけにもいかなくて……」
『尊はよくやっている。我等は神、決して使役するのは楽な事ではない。にも関わらず既にここまで同調出来るのは、先代の神子より遥かに優れている』
天空猫神が労うように尊さんにすり寄る。
尊さんは僅かに頬を緩め、身を寄せる柔らかなその頭を優しく撫でる。
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