勝手に喉がコクンと鳴った。唾を飲んだことで喉が渇いているのが顕著に感じられた。何故、猫じゃらしや煮干しだけではなく自分の飲み物を買ってこなかったのかと後悔した。


「……つまり、俺の場合、憑かれたのをほったらかしにしといた結果、魂まで入り込まれて霊が視えるようになったってこと……?」


 クラリと眩暈がした。

 もしかすると、今まで拓真暁だと思っていた俺は、俺ではなく他の誰かに操られていたのかもしれないと思うと…………


『お主は人の話を聞いておらんのか?』


 ポカリ、と煮干しで殴られた。

 煮干しで殴られるなんて初めての経験だ。しかも、猫の形した神様が煮干しを武器に攻撃してくるなんて思ってもみなかった。

 いや、そうじゃなくて……


「あ、えっと……だってさっき……同化してるとか……憑かれてるから霊が視えるんだって……」


 自分よりも大分小さな物体に向かって、俺は言い訳するように、助けを求めるようにボソボソと反論する。


『後ろに視える……尊も地陸もそう言ったであろう?』


 呆れを込めた吐息を漏らす天空猫神は、指し棒のように振りかざしていた煮干しソードをバキリと噛み砕いた。

 天空猫神の遠回しな言い回しでは理解が出来ず、尊さんへと視線を戻す。

 尊さんは人を安心させるような優しい笑みと深い頷きを送ってくれた。


「大丈夫です。拓真さんに憑いている者は、拓真さんの魂に入り込んではいません。波長は同調され、拓真さんに同化してはいるものの、それ以上深く入り込む気はないのか、ぴったりと肩に貼り付いていらっしゃるだけです」


 ぴったりと貼り付いているというのは決して気持ちの良いものではないが、とりあえず、乗っ取られたり、守護霊を追い出されたりはしていないようでほっとする。

 だが――――――


「……だったらなんで憑いているせいで霊が視えるなんてことになってるんだ?」


 元々俺自身に霊感があったわけではないというのなら、とり憑かれたことで霊感が目覚めたのか、それとも憑かれると霊が視えるようになるものなのか、はたまたとり憑いた霊に霊感があったとか、そういうことなのだろうか。


「それは、拓真さんに憑いているのが人の御霊ではないからです」


『お主に憑いているのは狐じゃな。稲荷神って奴じゃ』


「は?それって神様が憑いているって事か?」


『うん、祟り神ってやつだね。でもボク達よりずぅっと力の無い奴だよ』

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