「拓真さんは、守護霊を見たことがおありですか?」


 頭の上に大量の疑問符を浮かべて混乱する俺をなだめて座らせると、尊さんはそんな質問から解説を始めた。


「いや、ないと思う……」


「私もありません」


「は???」


「そういうものなんです。私にも拓真さんにも一般的に守護霊と呼ばれるような御魂が生まれた時から憑いています。正確には、憑いているという言い方だと語弊があって、御魂は自身の魂の中に存在しているんです」


「はぁ……」


 確かに、言われてみればなのだが、霊が視えると言っても、それは浮遊霊とか地縛霊とか、そういう所謂悪霊とかばかりで、守護霊というのが視えた経験は無かった。

 それは、他人だけに限った話ではなく、鏡を見たところで自分の守護霊も視たことはないし、目の前の尊さんにもそれらしきものは視えない。

 だから、てっきり守護霊なんて幻想に過ぎないのだと思っていたのだが……そうではないらしい。


『我らもそうだが、守護霊なんぞまで視えたら霊力のある人間はたまったもんじゃないな』


『そうだねー、人間の数だけ守護霊がいるわけだから、どこも満員状態だもんねー』


 カリポリと咀嚼音を響かせながら、猫神たちがいらぬ相槌を挟む。

 まぁ、その通りだケド……

 もしも、守護霊が視えていたら、トイレや風呂なんて落ち着いて出来やしない。

 深く考えたことはなかったが、霊感とかそういったものも、人間の精神に被害を必要以上に与えぬよう上手くできているらしい。


「ですから、ほとんどの場合、霊に憑かれるようなことがあっても、守護霊が魂の中まで悪しきものが入ってこないように護ってくださっているので、お祓いをする必もなく大抵が引き剥がされて離れていきます」


 臙脂色の制服のリボンが下がった胸元に手を当て、尊さんは守護霊はここにいるのだとばかりにそう言う。

 ともすれば、それこそ幻想と言っているようなものじゃないかと思えるような台詞だったが、不思議と彼女の言葉の響きには説得力があった。

 釣られるように、俺の掌も自分の胸へと動いていた。


「けれど、念の強い霊は、守護霊の力では引き剥がすことが出来ません。そのまま時が経過すれば、霊は憑いた人物と波長を合わせ、同化し、場合によっては、魂の中に入り込み、守護霊を追い出したり、その人の精神を乗っ取ってしまうようなことまであるんです」

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