漆
「ところで、何か訊きたい事があるとの事でしたが?」
煮干しのお陰で場が完全に和んだ中、おずおずといった感じで尊さんが切り出した。
「あー、そうだった。えっとさ……実は昨日の事なんだけど……」
結局いざとなると話の糸口が判断出来ず、しどろもどろに話し始める。
「あっ、はい。昨日はこの子達が失礼な振る舞いをして申し訳ありませんでした」
尊さんは、俺のはっきりしない態度に、クレームを付けに来たのだと勘違いしたのか丁寧に頭を下げる。
しかし、当の“この子達”はバリバリと煮干しを噛み砕いていた。
「いやっ、別に文句を言いに来た訳じゃなくて!その……あのさ、俺って何か憑いてる?」
尊さんの眉が困ったように少しだけひそめられた。
『なんじゃ……お主本当に気付いてなかったのか?』
煮干しに夢中になっていた筈の天空猫神が顔を上げてそう言う。
「やっぱ何か憑いてるんだね!?」
天空猫神の言葉を肯定とばかりに、俺は尊さんを問い詰める。
尊さんは今度ははっきりと俺から目を逸らした。
『暁さー、ボク達の事もそうだけど、色んなものを視る事が出来るでしょー?』
きちんと名前を覚えてくれたらしい地陸猫神は、まだ片手に煮干しを持ったまま、呑気な口調でそう言う。
「ああ。いつからか覚えてないんだけど、視えるようになって……誰にも言ってはいないんだけど……」
『ふぅん。でもねー、それは暁の力じゃないんだよー。多分後ろの奴のせいー』
地陸猫神は生まれて初めての俺の告白をサラリと流して、そんな事を言う。どうにもこいつには緊張感というものがない。
「気付いていらっしゃらなかったんですね……確かに拓真さんの後ろに憑いている者が私には視えます」
「それってヤバくないの?あっ、でも別に体調悪かったりはしないし……」
慌て俺は背後を振り返ってみるもやはり何も視えない。
「あっ、たぶん視えないと思います」
阿呆みたいに自分の背後を追い掛ける俺に、尊さんはそう言う。
「憑かれてから随分経っているんじゃないでしょうか?もう拓真さんとほぼ同じ波長になっていますから」
「同じ波長……?それって、どういう……?」
「えーっと、つまり拓真さんに同化してしまっているということです」
眉をハの字に歪めたまま、尊さんは場違いな笑みを浮かべた。
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