「ところで、何か訊きたい事があるとの事でしたが?」


 煮干しのお陰で場が完全に和んだ中、おずおずといった感じで尊さんが切り出した。


「あー、そうだった。えっとさ……実は昨日の事なんだけど……」


 結局いざとなると話の糸口が判断出来ず、しどろもどろに話し始める。


「あっ、はい。昨日はこの子達が失礼な振る舞いをして申し訳ありませんでした」


 尊さんは、俺のはっきりしない態度に、クレームを付けに来たのだと勘違いしたのか丁寧に頭を下げる。

 しかし、当の“この子達”はバリバリと煮干しを噛み砕いていた。


「いやっ、別に文句を言いに来た訳じゃなくて!その……あのさ、俺って何か憑いてる?」


 尊さんの眉が困ったように少しだけひそめられた。


『なんじゃ……お主本当に気付いてなかったのか?』


 煮干しに夢中になっていた筈の天空猫神が顔を上げてそう言う。


「やっぱ何か憑いてるんだね!?」


 天空猫神の言葉を肯定とばかりに、俺は尊さんを問い詰める。

 尊さんは今度ははっきりと俺から目を逸らした。


『暁さー、ボク達の事もそうだけど、色んなものを視る事が出来るでしょー?』


 きちんと名前を覚えてくれたらしい地陸猫神は、まだ片手に煮干しを持ったまま、呑気な口調でそう言う。


「ああ。いつからか覚えてないんだけど、視えるようになって……誰にも言ってはいないんだけど……」


『ふぅん。でもねー、それは暁の力じゃないんだよー。多分後ろの奴のせいー』


 地陸猫神は生まれて初めての俺の告白をサラリと流して、そんな事を言う。どうにもこいつには緊張感というものがない。


「気付いていらっしゃらなかったんですね……確かに拓真さんの後ろに憑いている者が私には視えます」


「それってヤバくないの?あっ、でも別に体調悪かったりはしないし……」


 慌て俺は背後を振り返ってみるもやはり何も視えない。


「あっ、たぶん視えないと思います」


 阿呆みたいに自分の背後を追い掛ける俺に、尊さんはそう言う。


「憑かれてから随分経っているんじゃないでしょうか?もう拓真さんとほぼ同じ波長になっていますから」


「同じ波長……?それって、どういう……?」


「えーっと、つまり拓真さんに同化してしまっているということです」


 眉をハの字に歪めたまま、尊さんは場違いな笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る