『……ん?ゴエン、他にも何か持ってる?』


 地陸猫神は猫じゃらしに手を出したまま、今度は俺が提げていたビニール袋へ顔を突っ込もうとしてくる。


「ああ、コレ?猫じゃらし作戦が駄目だったら、コレはどうかなと思って……」


 今にもビニール袋にそのまま入ってしまいそうな地陸猫神を押し退け、中に入っていたものを取り出した。


「煮干し?」


 尊さんが興味深そうにビニール袋から覗く《カルシウムたっぷり》という謳い文句とニッコリ笑った魚の絵が描かれたパッケージを覗き込む。 

 我ながら安直な考えだったかなと苦笑いしつつ頭を掻く。


『お主……ナメているのか?』


 案の定、天空猫神はこめかみをピクピクさせているようだ。


『供物なら他にも色々あるじゃろー!!それを煮干しなんぞで釣ろうなど……』


 天空猫神の怒りが爆発のカウントダウンを始める。

 だが……


『ちょーだいvにぼしちょーだいv』


「釣れてるケド?」


 地陸猫神は袋と俺に跳び付いていた。

 天空猫神は、その光景に、言いかけていた言葉を飲み込み、ガックリと脱力する。

 やっぱり「神」が付いていても猫には変わりないようだ。


「良かったねー、ちーくん」


『うん』


 煮干しを幾つか差し出すと、地陸猫神は器用に前足で煮干しを掴み、むしゃむしゃと頬張る。それは猫らしい動作とは言えないが、その辺の猫よりも愛らしかった。

 尊さんも夢中になる地陸猫神を見て、幾ばくか頬を弛める。


「頂いちゃってすいません。ほらっ、天ちゃんも意地張ってないで!」


『フン!』


 尊さんに促され、天空猫神も手を差し出したので煮干しを乗せてやると、天空猫神は礼も言わずに尊さんの後ろに隠れるように退る。

 だがポリポリと煮干しを咀嚼する音はしっかりと聞こえてきていた。


『ねぇ?ゴエン?おかわり』


 がつがつと貪るように食べていた地陸猫神は、もう食べ終わったのか、俺の持っている袋へ手を伸ばしてきた。


「これ、いっぱい喰わせて平気?」


 隙有らば奪おうとする地陸猫神の手を避けつつ、一応飼い主(?)に確認をとる。


「ええ、大丈夫です。でも本当は神様なので何も食べなくても平気なんですけどね」


 尊さんは地陸猫神の卑しさに恥ずかしそうに苦笑していた。

 まぁ、お土産が好評だったのは俺としては何よりだ。

 そのお陰で尊さんの警戒も弛みつつあるようだし。

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