巫女さんと猫は、まさか覗かれているとは思いもよらず、のんびりと午後の一時を過ごしていた。

 俺は池の周りにある一際大きな岩陰にしゃがみ込んで身を隠しつつ、その光景に目を奪われる。誰もいないこの場所は、どこか浮世離れした彼女にピッタリだった。

あの猫達が普通の猫だったらどれだけ絵になるだろう。

 境内前に建つあの駒猫のモデルはこいつらなのだと、改めて理解する。


『尊?大丈夫か?』


 膝に乗っているキジトラ柄が目を閉じたまま、巫女さんを呼ぶ。


「んー、何が?」


 巫女さんは彼方に視線を据えたまま問い返した。上の空といった感じで猫を撫でる手を止めようともしない。


『やはり我等を使役するのは大変か?』


 猫は喋りつつも首の下を撫でられ、喉をゴロゴロと鳴らしている。


「んー、ちゃんとした儀は初めてだったからね。でも、大丈夫」


 巫女さんの口調は昨日とは別人のように朗らかで垢抜けていた。

 俺は彼女達の会話が少々聞き取りづらくて僅かに身を乗り出した。


『だが、大分気力を消耗しているようじゃないか?』


「天ちゃんは心配し過ぎ!このくらいで弱音吐いてらんないよ」


 巫女さんは心配する膝の上の猫にそう言って微笑んでみせる。

 ゴトッ!!

 その時、突然異音が響いた。

 思わず驚いて飛び上がるのを必死で堪える。

 音の出所を探れば、先程まで腹を出して寝ていたブチ柄の猫が、無意識に痙攣したらしく、軒先の板の間に頭をぶつけたようだ。

 はっきりと響いたその音にも、巫女さんとキジトラ柄猫は気にした様子もなく、会話に夢中になっている。

 頭をぶつけたブチ柄は、誰かに殴られたとでも思ったのか、怪訝そうに露出していた腹を隠すように転がる。

 そして……目が合った。


『?』


 慌て岩陰へ首を引っ込めるが、後の祭。ブチ柄は確実に俺の存在を捉えていた。

 こうなったら、あれを出すしかない!

 俺は提げてきたビニール袋に手を突っ込んだ。これには確たる証拠を掴む為の最終兵器が入っている。

 すかさず岩陰から、最終兵器のみが見えるように突き出す。


『ん?おい、地陸。何をしておる?』


 キジトラ柄が相方の挙動の異変に気付いた。しかしもう遅い。その時には、ブチ柄は瞳孔を目一杯見開いてこちらに集中していた。キジトラ柄も何をそんなに見つめているのかとこちらに視線を移し――――


『地陸っ!いかん!!』


 キジトラ柄が叱咤するもブチ柄は板の間を強く踏み切り、文字通り空中を一直線に駆けてきている。

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