拾仇
「じゃあ、後は護符を作りますので、それをお持ちになって様子を見て下さい」
二匹の猫擬きによって微妙に途切れてしまった間を誤魔化すように、巫女さんは口を開いた。
「あの……ちょっと水が飛ぶかもしれません」
這いずるようにして美衣子の隣に来た俺と、全くその場から動こうとしない美衣子に向けて、一言断りを入れ、巫女さんは持参してきた紙と小瓶を手に取った。
右手の親指と薬指、小指の三本だけで小瓶を支え持ち、残りの二本の指は揃えてつき出す。そのまま器用に親指だけで小瓶の蓋を弾くようにして開けると、左手で掲げた紙へと弧を描きながら水をかける。
一瞬のうちに飛び散った水は、飛沫となって辺りに舞い、後方から射し込む昼の外気に晒され鈍く瞬く。
巫女さんは紙に付着した水が乾かぬ間に、すかさず右手の二本の指を、筆のように見立てて、紙の上を滑らす。
すると本当に指先が筆、水が墨ででもあったかのように、真っ白だった紙に黒字が刻印されていく。
「え!?字が……!?」
手品のように突然表れた刻印を見て、美衣子が驚愕の言葉を漏らす。
巫女さんの手がゆるりと動き、刻印が施された紙を今度は頭上へと掲げる。
そこに後方に控えていた猫擬き達がふよふよと近付いてきたかと思うと――――ぽん、と紙にそれぞれ肉球を押し付けた。
「はい!これでおしまいです」
掲げていた両手をおろし、巫女さんは輝かしい笑みを浮かべる。
「ありがとぅ……ございます」
美衣子は目の前で起きた出来事に茫然としつつ、心許ない礼を述べた。
つーか、視えてるとなんかスゲェ間抜けな光景だ……。
「これをお持ち帰りいただいて、お部屋の中に貼ってください」
出来上がった護符を更に和紙のようなもので包み、巫女さんは美衣子へと手渡す。
「あ、持ってるんじゃなくて貼っておくんだ……」
「はい、玄関でも良いのですが、出来ればご自宅の中心に位置するお部屋のほうが良いかと思います」
「……はい、わかりました!」
「それと、もしまた何かあればご連絡ください。先ほどご連絡先をおうかがいしていますので、一週間後に一度こちらからお電話させていただきますので……」
至れり尽くせりとはこういうことを言うのだろう。これでタダだというのだから驚きだ。
巫女さんは改めて儀礼的な礼をこちらに向けてすると、俺達にも祭壇に向け礼をするように促し、三人揃って…………正確には三人と二匹揃って、深々と頭を下げた。
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