拾捌


「気分はどうですか?」


 キョロキョロと辺りを見回す美衣子に、巫女さんは変わらぬ笑みを向ける。だがよく見るとその額には薄らと汗が滲んでいた。素知らぬ風を装ってはいるが、お祓いにはそれなりの気力や体力が必要なようだった。


「……なんか、全然辛くない?」


 美衣子は、何が何だか解らないという風で、手を開いたり閉じたりしながら自分の体を眺めている。


「お祓いは完了です」


 美衣子の言葉を聞いて安心したのか、巫女さんは今度こそはっきりと息を吐いて、汗の粒を拭った。


「美衣子?具合、平気なのか?」


「うん。なんかすっかり……」


 俺が慌て駆け寄ると、美衣子はまだ実感がないようで、大きく目を見開きつつも笑みを浮かべる。確かに美衣子の頬は先程より赤みを帯びていた。


『当たり前だ!』


『ねー、あんな残りカスじゃ面白くもなんともないよねー』


 コソコソと話す声が安堵の喜びを半減させるように割り込んでくる。

 例の猫もどき達だ。そう、例の猫もどきはまだ消えることなく、巫女さんの後ろをふよふよ浮いている。


『コレっ、地陸!カスカス言うでない。我達は朝飯前でも尊にとっては大変な事なのじゃぞ!!』


『だってぇー、つまぁんないんだもーん』


 奴達は、俺達に視えていないとたかをくくって勝手に喋くっている。

 勿論それが聞こえているらしい巫女さんは、俺達に悟られないようにしながらもチラチラと二匹を睨み付けている。

 だが、猫のすぐ近くにいる美衣子にはそれらのやり取りは全く視えも聞こえもしていないようだ。


「良かったな。美衣子」


 何も視えていない振りをして、美衣子の頭を強くわしゃわしゃと撫でる。


『ねぇ、天ちゃん?ボクあっちがいいなー』


『地陸!ちゃん付けで呼ぶでない!!……あの男のことか?確かに面白そうだが……駄目だ』


『なんでー?』


『尊がやるとは言っていない。それにあの男、自分では何も気付いてないようだぞ?多分鈍感なんだろう』


『あー、なんか阿呆っぽいもんねー』


 猫達は本当に好き勝手に言いたい事を言っている。

 って、お゛いっ!?全部聴こえてるんスケド……

 俺は思わず喚き出したくなる衝動を必死に抑えた。

 どこまでも続きそうな二匹の会話は、巫女さんの怒りを含んだ鋭い眼差しによりやっと遮られる。


『ごめんねー、尊ぉ。もう大人しくしてるから怒んないでー』


『尊!済まぬ!地陸、黙っておれ』


 睨む巫女さんに、二匹は慌てた様子で謝罪した。

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