拾陸

「でも…………もしご自宅に何かが居着いてしまっていたら、有村さんだけをお祓いしても意味がないかもしれません」


「なら、どうしたらいいの?」


 淡々と見解を述べる巫女さんに、美衣子はすがるように問う。


「そうですね…………とりあえず今日は、身体を浄めて不調を取り除きましょう。後は、ご自宅に帰った後に身を守る為の護符をお渡ししておきます」


 僅かな思案の後、巫女さんは結論を出す。

 その独特な符丁と雰囲気はあの神主さんによく似ている。


「ただ、場合によっては異変が続くかもしれません。その場合、ご自宅のほうにお祓いに伺わせて頂きます。また、必要なら有村さん達が行かれたという肝試しを行った場所にも行ってみます」


 理路整然と思い付く限りの解決策を述べ、巫女さんは柔らかな笑みを浮かべた。





 今後の方針も決まりところで、俺達は移動するよう云われた。準備があるという巫女さんと一端別れ、所々に設置されている案内板に従って祓殿を目指す。

 祓殿とは文字通りお祓い、厄払いを行う場所。民俗学部の学生であるにも関わらずただ講義を受けているだけで、対して神社に縁のない俺は勿論初めて訪れる。

 祓殿の前に着いたところで、どうしたものか迷っていると、いくつかの荷物を抱えて巫女さんが戻ってきた。


「では、付き添いの方は、そちらに」


 巫女さんは、俺に向かってそう言う。

 祓殿の中は、一面板の間で、立派な祭壇が設えてあった。

 言われた通り移動しつつ、ろくに名乗ってなかった事に思い到る。


「準備は宜しいですか?あまり緊張せず楽になさって下さい」


 どうやら、いよいよ始まるらしい。お祓いなんて、テレビでインチキっぽいものは見た事があるが、実際の現場に立ち会うのは初めてだ。

 美衣子は巫女さんと向かい合って座ったまま、神妙な面持ちをしている。

 なんだか端で見ている俺まで緊張していた。


「軽く目を閉じて、私がいいというまでは開かないで下さい」


 指示に従って、美衣子が目を閉じる。


「肩の力を抜いて、深呼吸して下さい。そうです。そのまま頭の中を空っぽにする感じで……そのままにしていて下さい」


 一定のトーンで、巫女さんは美衣子へと語りかけている。


「それでは、始めます」


 宣言を合図に、表情を引き締め、一歩退がり、距離をとる。

 そして自身も同じように目を閉じ、呪文のような……祝詞というやつだろうか……を唱え始める。

 祝詞は、不思議な響きをもって社内に響いた。

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