拾伍

 美衣子は半信半疑という感じで、恐る恐る両手をテーブルへと乗せた。


「では、ちょっと失礼します」


 一言断り、巫女さんの細く白い指先が美衣子の両手を包み込む。端から見ていても分かるくらいはっきりと、美衣子の全身が怯えるようにビクリと震えた。

 巫女さんは小声で「大丈夫」と囁くと、ゆっくりと両目を閉じた。

 沈黙が辺りに満ちる。ただ二人の手が重なりあっているだけで、目で見る限りは特に変化はない。

 何分にも感じられた沈黙は、巫女さんがその黒目がちの瞳をもう一度覗かせた時に破られた。


「今は何かが憑いている様子はありません」


 ゆっくりと瞳を開き、美衣子の手を離すと、巫女さんはきっぱりとそう言った。

 それを受けた俺と美衣子の表情は対称的だっただろう。


「…………」

「そっ、そんなはずないっ!」


 美衣子は少しムッとしたように喰ってかかる。

 けれど、俺は巫女さんの真意を見定めるように、次に紡ぐ言葉を待っていた。

 この巫女さんは多分本物だ。

 もし巫女さんが、美衣子に何かしら「憑いている」と言っていたら、彼女が適当なことを言っているのではないかと疑った。けれど巫女さんは、「今は憑いていない」と言った。

 美衣子の身におかしなことが起きたというのは、嘘ではないと思う。しかし、それと美衣子が憑かれているかどうかは別の話だ。

 要するに、俺と同じ見解を巫女さんは言ったということだった。その結果、一瞬にして不安は信頼へと変わった。

 巫女さんは、興奮する美衣子を理解しているとばかりに頷いて宥めると、続きを継ぐ。


「今は何も憑いていません。ですが悪意の残骸が残っているのは確かです。手足が冷たいとか、痺れるといった感じはありませんか?怖いというよりも体調が良くないというほうが気持ちとしては強いのではありませんか?」


 圧されることなく、一定のペースで畳みかけるようにそう言う。

 美衣子の表情が驚愕へと変化していった。そのあからさまな表情の変化は、巫女さんが的を射たことを言っているということを明らかにしていた。


「そうなのか?」


 自分の身体を守るようにかき抱いた美衣子に、俺は確認をとる。

 美衣子はコクンと頷く。


「神主から聞きましたが、肝試しに行かれたそうですね。その場所で悪い気に当てられたか、自宅まで何かを連れてきてしまったのかもしれません」


「でも、とり憑かれてるわけではない?」


「はい。今の有村さんを視る限りでは、何かが憑いているようには感じられません」

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