拾壱


「うっ、うん。あっきぃが一緒なら平気だよね」


 美衣子は自分自身に言い聞かせるように、笑顔をつくる。


「あ、ああ」


 まるで正義のヒーローを崇拝するかのような美衣子の眼差しに、俺はひきつった笑みしか返せなかった。

 果たして美衣子は俺をどう見ているのだろうか?一度、美衣子の俺に対しての見方を改める必要があるかもしれない。


「お待たせしました」


 ゆっくりと扉が開き、朗らかな口調と共に神主さんが部屋へと戻って来た。


「それでは、改めてお話しを聴かせてください」


 俺の対面へと腰をおろし、神主さんは本題へと入る。

 一緒に入って来た湯気のたつ湯飲みをお盆に乗せた女性が、控えめに然り気無くお茶を置いていく。

 女性は巫女装束は身に付けておらず、ロングスカートにニット、エプロンという普通の格好だった。多分神主さんの身内、奥さんとかなのだろうが、落ち着いた格好が似合わないくらい若かった。

 ……さっき会った巫女さんにしろ、この女性にしろ、なんだってこの神社は美人ばかりなんだ?

 それぞれにお茶を配り終えると、女性は深々と一礼して去っていった。


「えーっとですね、単刀直入に言うとお祓いをお願いしたいと思いまして……」


 どう切り出したらいいものか散々考えていた筈なのに、結局いざその場になるとこんな言い方しか出来なかった。


「成る程。ではそう思い至る何かがあったということですか?」


 美衣子はもとより俺に説明させる気らしく、問われても、神主さんと俺の顔を交互に見比べているだけだった。


「実は、ここ数日、自宅にいると、足音や気配、金縛りなんていう現象が起きてまして……特に姿なんかを目撃したわけではないんですケド」


「そうですか……」


 思案気な呟き。

 神主さんが初めて笑顔を歪ませたことに、俺と美衣子は思わず息を飲む。


「もう一つだけお伺いします……どうして、他の寺社ではなく、此方にいらしたのですか?」


「それは……」


 事の信憑性を訊ねられるとばかり思っていた俺は、予想外の質問に一瞬返答に詰まった。


「神主さんがお祓いを得意としているって聞いたんです!!私本当に困ってて、だから……だから、助けて下さい!!」



 すると突然、電源が入ったように、美衣子が動いた。

 僅かに腰を上げ、両手をテーブルに付き、半身を乗り出し、堰を切ったように声を張上げる。

 不安が爆発したのだろう。

 あまりにも必死な切なる懇願だった。


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