付き添いの俺は、熱心に願うこともなく、直ぐに手持ちぶさたになる。

 ちらりと横目に見れば、美衣子は瞳を固く閉じて一心に祈っていた。


「ご参拝有難うございます」


「うわっ!?」


 突然直ぐ後ろで発せられた声に、俺は思わず飛び上がった。

 見れば、水色の袴を履いた四十過ぎのおっさんがニコニコこちらへ笑いかけている。


「お待たせ致しました。私がここの神主をさせて頂いている若宮わかみや 龍彦たつひこと申します」


 おっさん、もとい神主さんは十以上確実に年齢の離れている俺達に、深々と頭を下げて、丁寧に挨拶する。

 この人、全く気配を感じさせずに現れたぞ……。

 丁度参拝から目を開けたばかりの美衣子は手を合わせたまま固まっていた。

 社務所まで来いと言われていたので、まさか相手からここまで来てくれるとは思ってもみなかった。


「それで、どんなご用件でしょう?」


 神主さんは人の良さそうな笑みをたたえ訊いてくる。


「あっ、えーと、ちょっとご相談がありまして……」


 後ろに隠れるようにする美衣子の代わりに、しどろもどろに口を開く。


「そうですか……では、社務所のほうでお話しをうかがいます」


 神主さんは、笑みの形に細められた瞳をそのままに、背後でびくついている美衣子を気遣うように見やり、踵を返す。


「……ど、どうも」


 案内されたのは、社務所の応接間だった。

 神主さんに勧められ、俺達は並んで上座の席へ腰をおろす。革張りのソファは、滑らかな材質に反してやたらと深く身体を沈み込ませた。


「只今お茶をお持ちしますので」


 神主さんはそう告げ、部屋を出て行く。

 俺達は、ぽつんと二人その場に取り残された。

 年期と高級感を感じさせる応接セット、毛足の長いカーペット。

 まさかいきなりこんな重厚な雰囲気の部屋があるとは思ってもみなかった。


「ねぇ?あっきぃ?大丈夫かな?」


 沈黙に耐え兼ね、辺りに目を游がせていた美衣子が口を開く。


「大丈夫だって。あの神主さん変な人には見えなかっただろ?」


 ……たぶん。

 続くその言葉を俺は飲み込む。断言できる要素があるわけではないが、変に不安にさせることを言っても仕方ない。

 それに、少なくとも相手から見れば冷やかしにも見えなくない年若い俺たち二人に対して、こうして丁寧に対応してくれているのでから、それだけでも充分おかしな人間ではないという根拠になると思う。

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