仇
若宮神社は、神主の住居と社が同じ敷地内に存在しているようだった。
先程通った小路や石段等、辺り一帯がこの神社の所有地だとすると、中々権威と歴史のある神社なのだと察しがつく。
もしかすると、以前はこの辺一帯を取り仕切る立場にあったのかもしれない。
昔は葬祭を含め政にも神社は一役かっていたというから、若宮神社がその時代からあったなら、きっと相当の名家だということになる。
俺達は、木造の朱色の鳥居を潜り、社務所を探す。
「あっ、これ!」
賽銭箱が設置された拝殿の手前に来たところで、美衣子が声をあげる。
指差す先には、一対の狛犬……いや、狛猫が建っていた。
二体が向かい合うその姿は、何かを招いているなんてことはなく、定番通りの石細工として座している。犬よりも長い尾、フォルムもしっかりと丸みを帯び猫背を表している。更には、細かく柄までが細工されていた。きっと、トラ猫とブチ猫をモチーフにしたつもりなのだろう。
日本猫を代表するようなその二つの柄は、もしかするとその辺の野良猫をモデルに造りあげたのかもしれない。自由気ままに動き回る野良猫相手に悪戦苦闘する製作者の姿が思い浮かぶ。
「ねぇ?あっきぃ?せっかくだからお参りしない?」
「ああ、そうだな」
確かに、これからお世話になるのだから、挨拶くらいするべきか。
美衣子は、先程から幾分か調子が上向いているようだった。到着するまでは浮き沈み激しく、小さな事にも動揺していたが、今は落ち着いている。
この神社、ご利益があるというのは強ち嘘ということもないようだ。
辺りには清浄な空気が流れていて、霊とかそういった類いの存在も視られない。
「あっきぃ?」
「ん?あっ、ああ」
美衣子に急かされ、俺もケツポケットに入れている財布から五円玉を取り出す。
五円なんてケチくさいと言うなかれ、賽銭なんていうのは気持ちの問題だ。
所謂ご縁があるようにということである。
そもそも、俺は本日こんな事になるなんてちっとも思っていなかったので所持金が雀の涙なのだ。
カラーン……
木の箱へと吸い込まれていった小銭は、小気味良い音を辺りに反響させる。
因みに美衣子の賽銭は、太っ腹なことに五百円玉だった。
ガランガランッ……
鈴の付いた紐を二人で一緒に掻き鳴らし、手を合わせる。
そういえば、神社の参拝には作法があった気がするが、無信心な俺は勿論覚えていなかった。なので、朧気な記憶と美衣子に合わせてやっているだけだったりする。
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