「あのー、ちょっと訊きたいんスケド?」


 白い鳥居を抜け、階段を上りきると、そこには砂利を敷き詰めた広い敷地が拡がっていた。

 小路を登ってくる間は誰ともすれ違わなかったが、外国の観光客らしき人や、地元の人らしきおじいちゃん、おばあちゃん、所謂歴女ってやつか若い女性、など参拝客はチラホラ見られた。

 近くで掃除していた巫女さんに声を掛ける。

 美衣子は、沈み込んだまま、子供のように手を引かれている。


「はい?如何なさいました?」


 巫女さんは馴れた調子でニッコリと笑みを浮かべる。


「神主さんに会いたいんですが、いらっしゃいますか?」


 「……」


 巫女さんは、突然の申し出に僅かに眉を潜めた。

 俺と背後にいる美衣子を見比べるようにしている。

 確かに、若い男女が平日の昼間っから突然神主を訪ねてくれば怪しまれるのは仕方ないかもしれない。ましてや一人は半泣きだし。


「あのっ!!」


 美衣子を隠すように巫女さんの視線に割って入り、誤魔化し笑いを浮かべて声を張り上げた。


「えっ!?あっ……、神主ですね?今呼んで参りますので、社務所の方にお越しください!」


 巫女さんは、俺の声に反応して飛び上がるように我に返ると、慌て踵を返し走って行った。

 巫女さんが示した先には、神社には定番の風景が広がっている。

 朱色の鳥居、石畳の参道、手水舎、賽銭箱……

 突然来たものだから、神主不在という可能性もあったが、幸い面会は出来るらしい。

 それにしても……今の巫女さん……

 咄嗟だったのでスルーしそうになったが、相当可愛かった。

 年頃は俺達と変わらないくらい。巫女姿がやたらといたに付いていたので、もしかすると雇われのアルバイトというよりも神主の娘さんがお家の手伝いをしている感じかもしれない。顔立ちは別に古風というわけではないが、長い髪を緩く纏めた感じや巫女装束という和風な装い。素材の良さを際立たせる薄化粧。もしあれが狙って巫女なんていう稀有な職を選んで働いているのだとしたらかなり計算高い。いや、もし彼女が巫女になるのが必然として神主の娘に生まれてきたのだとしたら、それはそれで神様の思し召しというか……

 って、俺はいつから美少女評論家になったんだ?


「ん?」


 ふと気付くと上着の裾が引っ張られている。

 ぼーっと巫女さんが走り去っていった方向を見つめていた俺を、心配そうに美衣子が覗き込んでいた。

 実は今の巫女さんに見惚れてました、なんて口が避けても言えない。

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