要するに、ちゃちな言葉で言えば俺には霊感というものがあるらしい。

 いつからかは覚えていないが気付いた時には、ぼんやりと視えるようになっていた。

 救いはそれが当たり前だった事だ。

 常に視えるモノだから騒ぎたてる事もなく、関わらずに、普通に周囲に溶け込んで、この歳になるまで生活して来ることが出来たのだった。

 そんなことを胸を張ってひけらかすような趣味もないので、誰にも言っていない。

 親くらいはなんとなく気付いているかもしれないけど、友人達には伝えてはいなかった。

 だって、別に俺は『視える』だけで、祓えるわけでも、何をしてやれるわけでもないのだから……。




「なぁ?美衣子ってさ、いつから独り暮らししてんの?」


 木々に囲まれていた小路は、段々とその道幅を拡げる。

 前方には、そこに神社があることが確かであるとばかりに、石造りの白い鳥居が見える。


「ほへ?どしたのいきなり?大学入ってからだけど……」


 突然の会話の転換に、美衣子は意味が判らず小首を傾げた。

 俺も美衣子も独り暮らしだ。

 大学の近くにそれぞれ住む所を借りている。

 俺は少しでも睡眠時間を増やしたくて入学の際に転居したのだが、どうやら美衣子も同時期に独り暮らしを始めたらしかった。

 なんでそんな事を訊いたかと言えば……

 俺には、美衣子に何かが憑いているという感じはしなかった。だから今日まで、美衣子が怖い体験に悩まされているなんて気がつかなかったわけだ。

 それなら、もしかすると家自体に何かあるのではと思ったのだ。


「いやっ、最近引っ越したりとかしたわけじゃないのかなーと思ってさ」


 美衣子は、質問の意図を察したらしく、さっと表情を曇らせた。


「うーん……怖いことが起こるのは確かに独りで家にいる時だけだけど……あの洋館に行く迄は何も無かったよ……」


 美衣子はボソボソと声音を落とすも、はっきりと否定する。


「そっか」


 美衣子のあまりの浮き沈みに、俺はそれ以上の詮索を諦めた。

 前方にあった白い鳥居が眼前へて近付く。

 その先は階段になっていた。


「やっぱり……あっきぃの言う通り肝試しなんてやらなきゃ良かったね……」


 ふと見ると、美衣子の歩みが止まっていた。


「大丈夫だって……大丈夫だから」


 何と声をかけてよいか判らず、気休めを繰り返しながら、美衣子の頭を撫でる。

 そして、動こうとしない美衣子の手を引いて階段へと足をかけた。

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