陸
美衣子の進む先、原付を停めた場所から五メートルと離れていない場所に細い舗装路がある。
路の脇には、本当にその先に神社があるということを示すように、『若宮神社』と書かれた木造のシンプルな立札が置かれていた。
「なぁ?この神社、本当に有名なのか?」
樹木に囲まれたやたらと細い舗装路。
有名な神社への入口としてはちょっとぱっとしないその路を、並んで歩きながらそう訊ねる。
「えっ?あっ……うん」
「そっか。知らんかったわ」
毎日ここを通って大学に通っているというのに、全く気付かなかった。
この細い路を参拝客がうじゃうじゃ上がっていく姿は想像出来ない。
まぁ、参拝客の増える正月や祝日なんかに通ることがないからかもしれないが。
「ネットで調べたんだけどね……ほらっ、お祓いなんてそうそう経験するもんじゃないじゃん?……そしたら、この神社がいいって書いてあるサイトがあったの」
どうやら、有名と言っても神社通の中での話のようだった。
今まで極端に少なかった会話をこちらから振ったからなのか、話し始めた美衣子のテンションが段々と上がっていく。
「あのね、ここの神社ちょっと変わってるんだよ。ほらっ、狛犬ってあるでしょ?あれが猫なんだって!」
相槌を打つ間も無く、美衣子は楽しそうに話し続ける。
美衣子は本来こういう奴だ。話し出すと止まらなくて、そこはかとなく明るくて……。
「猫の神様を祀ってるかららしいんだけど、珍しいよねー!?それにねっ……」
どうして俺が肝試しを嫌うのか……それには理由がある。
怖がりと言えばそういうことなのだろう。
けれど、正確に言うならば、それは『視える』から怖いのだ。
ホラースポットは、少なからずそう呼ばれる由縁がある。人死にがあったとか、お墓があったとか……。
そう言った所に出向くということは、感じない人からすれば、何も起こらなかったで済むのかもしれないが、『視える』人間からすると必ず何かある。
もしその由縁が完全なる嘘っぱちだったとしても、人間が生理的に恐怖を感じる場所には、必ず良からぬ何かが集まってきているのだ。
だから、俺は肝試しなんてものに参加しない。
そこにある何かが害をなすかどうかは問題でなく、気分が良いものでは決してないから。
それに、そんな所に行かなくたって、暗い夜道とか学校とか病院、昼間の繁華街ですら、いつだって『居る』のだから。
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