「あっきぃ~!!!!」


 俺が到着して程なく、美衣子はまるで示し合わせたかのように、大きく手を振りながらやって来た。

 右手で女の子らしいキュートな原付を押している。

 大学を出る時、駐輪場に美衣子の原付があるのを確認したので、原付で行くつもりなのだろうとは察しがついていた。


「おかえり」


 目の前まで来たところでそう言ってやると、美衣子は満面の笑みを返してくる。

 少し前に恐怖に怯え泣いていたのが嘘のようだ。


「んで、何処の神社に行くんだ?」


「あっ、うん。すぐ近くなんだけど……」


 行先を訊ねると、美衣子は少し言い淀んだ。


「ネットで調べたら……大学の近くみたいなんだ……なんでも御利益があるって結構評判で……」


 美衣子はぽつりぽつりと答えつつも、一向にエンジンをかけず、駅のほうをチラチラと見ている。

 ここまで来て怖じ気づいたのだろうか?


「んじゃ、行きますか」


 原付に跨がり促す。

 美衣子は、躊躇するように何回か目を游がした後、諦めがついたのかやっとのことでメットを被った。




 結局、美衣子は行き先を口頭では伝えてはくれなかった。

 寡黙のまま原付を走らせる。俺は少し後ろを離れず付いて行った。

 知らない道を走っているわけではない。寧ろ良く見知った、通い馴れた道。殆ど大学に戻るような方向へと進んでいた。

 うちの大学は、広い敷地を必要としたせいか、駅から少し離れた山の上に建っている。傾斜はそんなにきつくないので丘といってもいいくらいの所で、徒歩で行けないこともない。しかし大半は、スクールバスや原付等を利用して通学している。


「ここから直ぐだから、あそこに停めてこ」


 美衣子は、風の音の向こう側からそう言った。示す先は、鬱蒼と木々が繁っているその木と木の間に出来た道路脇の空地のような場所。

 先を走る美衣子は、その空地へと原付を乗り入れた。俺もそれに倣う。

 そこは、偶然に空間が空いた場所のようで、舗装されておらず、砂利が混ざった土が顔を出している。もしこのまま手を加えなければ、自然の気紛れで失われるかもしれないような場所だった。


「ここか?」


 エンジン音が静まるのを見計らって訊ねると無言の肯定が返って来る。

 俺達が原付を停めたその場所は、大学へと向かう道中の中腹くらいに位置する場所だった。駅前の雑踏は届かないが、大学に通う者は行き来するという田舎とも都会とも言えない土地。


「こっち」


美衣子は、相変わらず 口数少なく、先導するように踵を返した。

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