肆
「さぁて、どうすっかなー」
取り残された俺は、予定が出来た事で帰るわけにもいかず、放課後迄の残り時間、手持ちぶさたになる。
ちょっと気を抜いてウトウトしようものなら、確実に寝過ごす事が目に見えている。美衣子に「任せとけ」的な発言をしといて、寝坊なんて事したら洒落にならん。
「とりあえず原付とりに行くか」
持て余した時間を潰す算段を考えながら、なんとなしにそう呟いて、駐輪場へと向かったのだった。
結局、大した金も持っていない俺は、何処かで優雅にお茶をするなんてことも出来ず、駅近くの本屋で立ち読みをしていた。
「それにしても、俺は何やってるんだか」
思わず頭の中の言葉が外に漏れていた。
講義も受けずに読みたくもない雑誌を立ち読みしている。
友情にアツイ奴と言えば聞こえがいいが、実際のところは流されるまま。
高校を卒業して、進路を考える時もこんな感じだった。やりたい事も特になく、なるようになればそれで良かった。
そんな俺に、両親は大学進学を勧めた。
別に親父もお袋も教育熱心という事はなく、友達みたいな感覚で接してくる人達だったので、進学を勧めてくるとは思わなかった。
驚いた俺が理由を訊くと、親父は一言、「お前と一緒に遺跡見に行きたいんだもん」等とのたまわった。
親父は考古学者なんていう稀有な職業だ。
その筋では中々有名らしく、大学で講義をしたり、やれ学会だの、やれ発掘作業だの言って飛び回っていた。
そんな浪漫を追いかける人なので、自分の子供に同じ道を目指してほしいという気持ちも解らなくはなかった。
でも、「だもん」とか言っちゃうのはどうかと思うが。
だから俺は、そんな親父の夢を叶えてあげてもいいかなという軽い気持ちで、進学を決意した。
けれど結局、大学に進学しようが、独り暮らしを始めようが、生まれついての適当でやる気の無い性格は直らなかったわけだ。
「あっ、そろそろ時間だ」
腕時計がふと目に入り、俺は慌て雑誌を置く。
読みたくもなかった雑誌にこれだけ集中出来るのもなかなかすげぇなと自分を褒めてやりたい。
そそくさと出ていく俺を本屋のおじさまが凄い形相で睨んできたが、俺はニッコリと微笑んでその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます