大学二年。年齢も二十歳になる年。まだ就職活動に焦る必要もない暇な大学生。ドライブを兼ねての肝試しなんてイベントは、決して稀な話でもないだろう。

 だが、俺は肝試しというものに大反対だった。だからこそ、俺がいない時にわざわざ行ったのだろう。


「ごめん……なさい!」


 俺の表情が余程険しかったのか、美衣子は堪えきれないとばかりに両目を固く閉じて詫びる。

 これではまるで、俺がいじめているみたいじゃないか。

 美衣子の全身全霊の謝罪に、気まずさと罪悪感が募る。

 小さく溜め息をついて表情を弛め、美衣子の頭を軽くポンポンと叩いてやった。


「それで、例の『あの洋館』に行ったら恐ろしいことが起きたと?」


 『あの洋館』とは、この辺りでは有名なホラースポットだった。

 俺達の通う大学の隣りの山、頂上近くに位置するその洋館は、放置されてからかなりの時間がたっている年代物の廃墟だ。

 なんでも、住んでいた人間が一家心中したとかいう曰くもあるらしいが、詳しい話を俺は知らない。


「ううん……」


 けれど美衣子は、予想外に首を横に振った。


「行った時は特に何もなかったんだよ。確かに気味悪いとこだったけど……でも、その日からずっと、視線を感じたり、足音がしたり、金縛りにあったりするのっ」


 美衣子は興奮を抑えきれず一息に言い切る。話しているうちに段々と恐怖や何やらが蘇ってきたのか、瞳には涙の粒が浮かびあがっていた。


「……一緒に行ってくれないかな?」


「解った。付き合うよ」


 美衣子が泣き出してしまわないよう、俺は出来るだけ優しく真剣に了承した。


「良かったぁ……ありがとぉ」


 美衣子は一瞬で顔を綻ばせる。

 きっと一緒に行った陽平達は何事もない様子なので、今まで言い出せずに我慢していたのだろう。


「それじゃあ、後で駅前で待ち合わせよ?」


「あぁ、了解。」


「じゃあ、私授業行くね!」


 大分スッキリした顔で、美衣子は勢いよく立ち上がった。

 そう言えば、午後の講義はとっくに始まっていたのだった。しかも時計を確認すれば既に半分以上が終わっている。


「あっきぃはどうする?一緒に行く?」


「いや、やめとく。陽平達が代返してくれてるかだけ確認しといて」


 欠伸を漏らし、大きく身体を伸ばしながらそう返す。

 実は昨夜徹夜でテレビゲームのクリアに勤しんでいたため、非常に眠かった。


「オッケー☆聞いとくね!」


 美衣子はおどけて敬礼してみせると、慌ただしく走り去っていった。

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