拾弐
神主さんは、美衣子の剣幕に虚をつかれたように目を丸くしたものの、直ぐに元の人を安心させるような笑みを浮かべて、「大丈夫ですから、落ち着いて」と宥めた。
神主さんの寛大な対応に、胸ぐらを掴み上げるのではないかという勢いが殺がれ、美衣子は疲れたように深々とソファに沈み込む。
「解りました。お祓い、こちらでお受け致します」
神主さんは場を鎮めるようにお茶で喉を湿らすと、お祓いを受諾してくれた。
一気に緊張が切れる。
「お話し、もう少し詳しく聴かせてください」
神主さんの目線は体ごと美衣子へと移動し、先程よりもゆっくりと優しくそう言った。
美衣子が頷き、自然に、当たり前に、回答権が移動する。
「その……友達と肝試しに行ったんです。それから、変な気配とか、視線とか……感じるようになって……その内に、足音とかまで聞こえるようになってきて……」
「気配や視線、足音。そういったものに困っていらっしゃるんですね」
「はい、後は金縛りとかもっ!」
再び、美衣子の腰が浮く。
神主さんは、深く大きく頷く。
美衣子は、一瞬はっとした顔をして吸い込まれるようにソファへと沈んだ。
この神主さん、本職はカウンセラーとかじゃないかというくらい、人から話を聞くスキルに長けていた。
その後も、どんな場所に行ったのかとか、頭が痛いとかそういう身体症状はないかとか、今までそういった経験をしたことはないか、などなど、落ち着いた口調でありながらも、確実に美衣子から状況を聞き出していく。
ビクビクとして、話すことすら嫌なことが思い出されるとばかりに怯えていたはずの美衣子はしっかりと受け答えしていた。
「ありがとうございました」
30分から40分程。一頻り話を聞き終えると、神主さんはそう礼を言って、手付かずのままになっていた机の上のお茶を勧めた。
黙って聞いていただけの俺ですら喉が渇いているくらいだ、話し続けていた美衣子も勧められるがままにお茶へと手を伸ばす。
「若宮神社はすごい力を持っている人がいて信用できるって噂で聞いたんです!お祓いするならここがいいって!それって、神主さんのことですよね!?」
美衣子は完全に信頼しきった眼差しでそう訊ねる。
「…………」
神主さんの首が笑顔のまま傾げられた。僅かに眉尻が下がっていた。
「……あー、実を言うとですね、私はお祓い出来ないんです」
神主さんは何が面白いのか、そう言ってはっはっはっと笑ったのだった。
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