第2話 僕の返事

「!!また、驚かしちゃったみたい…だね」

「本当にごめん!」

手を合わせながら佐柄木が謝った。

「いや、いいんだ」

「あかねくん、優しいね」


佐柄木にそんなことを言われたら嬉しくてどうにかなりそうだ…。

心の中でそう思いながら、表面上では笑って誤魔化した。


「それで、デートの誘い受けてくれるかな…?」

「う、うん!」

「ええ?」

そういうと佐柄木がふははと笑い出した。

咄嗟に返事をしたから、いかにも食い付きの良い返事をしてしまったのだ。

僕の返事に笑う佐柄木を見て初めて、なんだよこいつ…なんて思ってしまった。

憎らしいと愛らしいが混ざった気持ちだ。

もっとかっこよく返事をしたかった。

かといって、そんな返事の仕方、出来るわけがなかった。


「LINE、交換してなかったよね?」

「そうだね」

「サッカー部のLINEからあかねくんのこと追加してもいい?」

「うん」

「家に帰ったら連絡するね!」

「じゃあ、私電車来ちゃうから急がなきゃ!デート、OKしてくれてありがとう!また明日!」

「またな」


笑顔で僕に手を振って、向きを変えて走って駅に向かう佐柄木の姿が見えなくなると、僕は一旦その場に座り込んだ。

頭を抱えて、あったことを思い出す。

目を瞑った。

何度も思い出すけど、信じられない…。

夢、なのかな?

ベタだか頬をつねってみる。

痛いのだから、これは夢ではなく現実だ。

誰が夢の中では痛いと感じないと言い出したのか分からないが、今はそれを信じる。

明日、佐柄木とデートなんだ。

デートも信じ難いけど、サッカー部LINEのメンバーの一覧にある佐柄木のアカウントを何度も確認しては追加しようか追加しまいかで迷ったことを思い出した。

今日は傷を手当してくれてありがとう、だとか口実という名のチャンスは何度かあったのに、追加出来ず悩んだ次の日、バレないよう佐柄木を目で追っては溜息をついた。

それが、数時間後には佐柄木から追加してもらえるのだ。

もうそれだけで充分かも、と思いつつ口元は緩みそんな自分に分かりわすすぎだろ?全くな、と自問自答しながら、立って、自転車置き場から離れると地面を蹴って自転車に乗った。


長い道のりでは貴重な下り坂をいつもより何十倍も、いや何億倍も爽快に風を切って走った。

こんなに気分がいいと行きは下り坂が上り坂になるなんてこと、忘れるようだ。

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僕と佐柄木 あらやま いぶみ @arym_123

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