僕と佐柄木

あらやま いぶみ

第1話 佐柄木からのお誘い

20分間の周走が終わった。

息が上がって、周りもみんな苦しそうに激しい呼吸をしていた。

僕は一昨日まで風邪を引いて高熱で寝込んでいて昨日は回復し、学校へは来たが部活には行かなかったので、今日は2日ぶりの部活だ。

だから息の上がり方が周りより酷かったのだろう。

マネージャーの佐柄木 奈緒(さえき なお)が声を掛けてきた。


「大丈夫?たしか…病み上がりでしょ?」

「…大丈夫」

息を整えてそう一言答えた。


彼女はそっかと笑顔で言って僕にタオルを渡すと他の部員にも笑顔でタオルを渡した。


佐柄木は気遣いが出来て常に笑顔でマネージャーには適任だった。

それだけじゃなくて凄く可愛のだ。

僕はよく女に興味が無さそう、なんて言われるけどそんなこともない。

僕は佐柄木の虜だった。


だったら先程声を掛けられた時も、いつも有難うだとか気遣いを気の利いた言葉で返せたらいいのだが、人見知りだからそうそう出来ることじゃなかった。

冗談を言う言葉の術も持ってなく、カーストの一軍のあいつみたいに佐柄木に冗談を言って肩を叩かれたことなんて一度もない。


いいな…実はそんなことを心の中では思っている。


サッカー部、集合!怒鳴り声に近い顧問の声がグラウンドに響く。

5分で終わると宣言して10分以上は掛かる顧問の話が終わると解散した。


僕は自転車を取りに行くため自転車置き場へ向かった。

あいつらはいいよな、すぐ近くの駅で電車に乗って帰れるなんて。

といつもと同じことを思う。

僕の家はバスも電車も近くになくてその上学校から遠いが、仕方なく自転車で通うしかなかった。

鍵をさす。

回すとガシャンと音を立ててロックが解除される。


そんな時に「あかねくん!」と女の子の大きな声が後ろから聞こえてきた。

僕を下の名前で呼ぶ女の子なんて佐柄木しかいなかった。

佐柄木が呼んだと分かってるのに僕は声に驚いて自転車を倒してしまった。

佐柄木だったから、と言った方が正しいだろうか。


「わあ!ごめん!!驚かしちゃった…」

「大丈夫だよ」


そう言って自転車を起こそうとした時、佐柄木が手伝ってくれたのだが、指が触れてしまった。

耳も顔もぶわっと赤くなったかもしれない。

指先に神経を集中していたわけでもないのに、触れた瞬間自分でも引くくらい指先は確かに敏感だった。


「自転車、私のせいで倒れちゃってごめんね」

「全然」


すると佐柄木はこんな質問をしてきた。

「明日って日曜日じゃない?」

今日は土曜日なので当たり前だ。

「そうだな、日曜日だよ」

「何か予定はある?」

「何もないよ」


「私と、デートしようよ!」


僕は「え?」と聞き返すのと同時に、また自転車を倒してしまった。

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