第34話オール魔導

 ホテルに帰ると既に連絡に来ていたエミューさんが受付のお姉さんを口説いていた。

_やめたげてよ。

 彼女は耳をしゅんとさせて俯き加減に、

「えぇですからその件は、、」

「そこまでだ!」

 うぅん私じゃない。

 そんなことする勇気はない。

 フロントに身を乗り出すようにしていたエミューさんの真後ろで順番待ちを食らわされていた私達のさらに後方、扉の前辺りに亜人種の男の子がいた。

_誰よ?

 耳の感じからするとキツネかな?

 ちゃんとファーリアの種族を知らない私は元世基準でしか判別できなかった。

「来ると思ったよ」

 振り向きもせずにエミューさん。

 こうして人に絡んでいれば必ず助けに来てしまう「鼻」のきくヤツだと彼女は言った。

_そこまで理解できる相手なんだ。

「カナちゃん。彼はエミューさんの」

_あぁそういうことか。

 それより早く退いて欲しかった。

 受付を通れないことにはいくら話が通っていても部屋に入れない。

 異世界でも鍵とかはあるだろうし。

 オール魔導ってことでもない限りは。

_お困りですか?

 そこへ受付さんの隣にいた精霊さんが飛んでくる。

_よろしければ私がお手続きをしますが。

「ありがとうございます」

 通っちゃった。


 がちゃがちゃとしたやりとりを背後に聞きながら私達は精霊さんと話をする。

「だから浮気なんかしてねぇって!しつけーな!」

「今フロントの人口説いてただろ?」

「小せえ男だなお前ぇも!?」

 ただのがちゃなので気にしない。

_周りの音消します。


パチ


 精霊さんが指を鳴らすと風が吹いて音が消えた。

_結構激しくやり合ってるのに聞こえない。

 精霊さんはそんなこともできてしまうんだ。

 風の精霊だからかな?

 精霊さんは瞬きをして瞳の色を赤に変えた。

_これくらいなら誰でもできます。

 火だったの?ごめんなさい。

 何か失礼なことをした気がして頭を下げてしまう。

 しかし、

「いいんじゃないかな?カナちゃんまだ勇者短いし」

 こっちもなかなかのものだった。


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