第30話龍貴晶ツアー1

 ファーリアでは宿舎に温泉を引いていない。

 そのため宿舎から離れた場所まで歩かなくてはならず、それも苦にならないような工夫が各地で施してあった。

 ここロズヴェルク帝国ではファーリアの簡単な歴史ガイドがあり、歴史の苦手な私でも理解できるようにしてあった。

 それを楽しみながら歩いていると、ものの 

 10分ほどで着くはずが、皆の道案内が予想外に下手だった。

 通常10分のところを40分ほどかかった。


 クリューは私と離れたくないのかスマホを持たず私にしがみついて、私もそのためスマホを操作できず頼みのクロエはヘトヘトになっていて、、


 輝石メンバー4人に全権が委ねられた。

 結果がこれだった。

 それでも何とか温泉街に着くとまるでロズヴェルクの城下町のように賑わう街に、特に灯りになりそうなもののない街並みが自ら発光するように健在自体が輝きそれに、

_下からも?

「ソーマだね」

 ラさんの声で足下を視る。


 よく視ると石畳の隙間から漏れていく発光粒子。

「これが」

 カナは初めてだっけ?

 そういえばそうだな。

 他人のソーマを読むことはしたけど、ソーマ自体がどんなものかはまだ知らなかった。


 うっすらした緑色の粒子。

 それが蒸気のように大気に混ざっていくものと地面に染み渡っていくもの、、


「こんな色して「すぐにわかりますよ」


 え?何が?

 私の隣からウェイさんが被せぎみに答えてくれた。

 それはソーマ自体の色、人と関わった時とはまた違います。

「人それぞれ」


 わぁ!いたのティさん。

「ロー」

 あ、ごめんなさい。

 後生ですから命だけは。

 後ろ手を拘束され首元にナイフを這わされた私は身動きがとれなくなる。

「やめな」

 それをラさんが摘み上げて助けてくれた。


カラン


_そんな簡単に。

 それよりあれは、、

「精霊ですね」

 まだ形になってないですけど。


 大地と大気の魔素マナが反応して元素エレメントが生まれ、それが高密度に圧縮された時、こうして稀に目の前で精霊になることがあります。

「なかなか見れないよね?」

_こっちがティさん?

「正解だよ?ところであの子連れて帰る?」

 ニシシッとイタズラっぽく笑うのは間違いなくティさんだった。

 これは輝石の中でも彼女にしか出せない輝きだ。

「そこに気づくとは流石ですね」

 それを冷静な分析力で評するウェイさん。

 ラは付かず離れず私を見ていて、ローは、、またどこかへ消えた。

 とにかく私は輝石のあとについて宿舎と同じ名前の建物に入っていった。

_?

「本館と同じ名前にすることでどこの温泉かわかるようにしてあるんだ」

 中に入ると王城のような立派な吹き抜けにそこからシャンデリア、恐らく誰かのレプリカだろう絵画なども飾られ、

「あれは違うよ。本物なんだ。皇室からの贈呈品で、、」

 はぁぁぁぁぁぁ、、

 それを聞いたからというワケではないが自然に息が漏れたというか、

「だからほら、よく視てソーマのケタが全然違うでしょ?これラ姉が、、」

 んぐぐ。

 ラさん。それはダメだよ。首絞めてるからさ。

 それにしてもよく視るとホントにスゴい意力だった。

 こんなにはっきりしたソーマが視えないなんて私ってばまだまだなんだなと感じた。


 入口で私達がそんなことをしていた時、

「お姉さんッちょっとッ」

 一言ごとに跳びはねるクリューに気がついた。

「これはクリュー様。お久しぶりです」

 紅いスーツの女性スタッフはカウンターから覗き込んで声をかけた。

_あの人耳生えてない?

 犬のような平たい耳が頭の上にちょこんと乗っていた。

 特に帽子で隠すでもなく、そのままにしてあった。

_ホントは気づいてたよね?

 亜人種の察知能力は鋭い。

 遠距離からの攻撃を避けるためのものだ。

 多少の退化はしていても、人間よりは鋭いはずだ。

_言ったからには助けてあげて下さいよ?


ピョンッピョンッドタッ


 あ、コケた。

 助けないばかりか少し微笑ましいような空気がその辺り一帯に視えるほど張り巡らされていた。

「まぁ大丈夫ですか?」

 ほどなくして女性スタッフがカウンターを回り込んで、クリューに手を差し伸べてくれた。


 手続きが終わってまずは宿舎の方の準備が整うまで、温泉に浸かってくることになった私達は揃って温泉コーナーに向かっていった。


 といってもここは温泉に特化された施設、その内部はお風呂に関するアレコレやグッズ売り場などが豊富に揃えられている建物だ。


 その数や種類は膨大な量に上る。

 宿舎に戻らずそのままここで過ごす人も少なくないらしい。

_遭難する人もね。

 年間何名もの遭難者が出てその度にスタッフが召喚した精霊が活躍するんだとか。


「それじゃ30分くらいか?」

 どうしよう時間確認してなかった。

「大丈夫です。確認ならしてありますよ。

1時間でお願いしますね」

「そうか。わかった」

 男湯にそのまま消えていくクロエ。

「私達もいきましょう」


 女湯に入ると早速困ったことになる。

 ロッカーは空いていた。

 5人なので並びはバラバラだ。

 そこはいい。

 問題なのは、

_脱げない。

 脱ぎ方がわからなかった。

 こんな複雑な服は初めて着るので脱ぎ方がわからなかった。

 よって、

「どしたの?」

_イヤな予感。

「脱ぎ方わかんないの?」

_何だその嬉しそうな顔は?

 このドレスはね?

 ここをこうして、こうするんだよ?

 喜々として脱がしにかかるティ。

「ちょ、、や」

 抵抗も虚しくあっという間に私は脱がされた。

 ティはそれをテキトーにロッカーに突っ込む。

 と、

「カナちゃん早く!」

 向こうからクリューの声がした。

「ほら、ルゥが呼んでるよ?」

 ティに手を引かれて私達も大浴場に入っていった。


 まず目に入ったのは正面の龍。

 ドンと壁一面に描かれているのはトカゲ型の大きな龍が魔族と人間の間に入って建造物や人を守る姿。

_アレは何?

「アレは有名な龍貴晶だな」

 この絵画のタイトルだそうで、どこの銭湯にも必ず描かれている。

「龍が私達を魔族から守ってくれた時の話を描いたものですね」

 この絵画は第一章まだ長いお話が、、

「あ、わぁわわわわ」

「どしたのカナちゃん?」

 隣にいたティさんにも構わず私は、


 やっちまった!

 無我夢中とはいえ龍を殺してしまった!

 助けてくれたとも知らずに、、

 私ってば何てことを!

 これまでに覚えている限りでは二体は殺している。

_片方は食べちゃった。

 エラいこっちゃ。

「落ち着けよ。アレはお前を試すためにやったんじゃねぇのか?」

 クロエ?いやここにいるワケないし。

 黒髪のスラッとした体躯にふっくらした胸元。

 くびれた腰。

_良かった。

 フサフサの尻尾。

 フサフサの尻尾!?

 よく見ると横じゃなくて頭の上から耳が生えていた。

 しかも髪は藍色だった。


 ピコピコ


 動いた。

 えっと、こういうのは、、

「彼女はライカンスロープだよ」

 ラさんが教えてくれた。

 

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