第26話ハウザウネ鉱石

 揺れが収まった。

 何だったんだろう。

 いいや、とにかく急がないとクリューもだけどカナも気になるし。

_あとは扉を開いて合流するだけだ。


カタカタ


カタカタ


 仕組みから考えるとここをこうすればいいはずなんだけど、、

「我を呼ぶは汝か」

 目の前の扉その脇に立つ石像が目を覚ます。

「そうだ。いきなりで悪りぃが説明の暇はねぇ!

協力して欲しい!仲間がこの中で試練に立ち向かってんだ!」

「      」

 暇ないっつってんのに妙な間置きやがって、、

「わかった」

 わかってくれたかソイツは、、

「ならばその資格試させてもらう」

 助からねぇぇぇ!

 輝石の龍の中の門番。

 その歴史は古くここじゃ語りきれねぇが、

 悪いな急いでんだよ!

「その昔、あらゆる魔法が失われた数百年の間にある芸術家によって命を与えられた石像。

文化財を壊すのは気が引けるが覚悟してもらう!」

 石像は鼻で嘲笑い、

「我を知るか。いいだろう、アリエス様の名の下にひれ伏すがいい!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 まだ動いてもいない石像の気迫だけで遺跡が揺れる。

 クソッなかなかのソーマじゃねぇか!

 山ん中のソーマでも吸い上げてんのか!

「いや、これは私のものだ」

 何その余裕ウザッ


シャァァァン


 コイツとも随分長い付き合いなるが、もうひとがんばり頼むぜ?


 少しばかり錆が目立ち始めた剣身を眺めて、柄をしっかりと握り直す。


カンカンッ


キンキンッ


 変わった音がするな。

 まるで金属みたいな。

「流石に衰えないもんだな」

 あまりの強度にそう溢すと、

「当然だ。アリエス様の想い、決して褪せることなどない!」

 いくぞ!


キィィィィィンッ


 火花を散らした大剣はその錆びた部分を削ぎ落とすようにして欠けた。

 バカな。相手は石像だぜ?

「どうやら知らないようだな」

 私の体はハウザウネ鉱石で構築されている。

_?

 何だって?

「およそ1000万年前の鉱石だ」

 その鉱石で構築された私の体は決して朽ちることはない。


 いいことを教えてやろう。

 貴様の剣は既に折れている。


ピキピキピキピキ


バァァァァンッ


「!?」

 その瞬間大きな剣が錆を中心に粉々に砕け散った。

 大気中の魔素マナと大地のソーマで強化はしていたようだが、それも大した効果はなかったようだな。

 より強固なものとぶつかれば何れはな。


 愕然とした表情のクロエはやがて口端を上げて、柄だけになった剣を投げ捨てた。


カラン


「いいもん見せてやるぜ。

この世界は二回滅んでいる。知ってるよな?

これは今からニ世界前の技だ」

「ニ世界前だと!?」

 クロエは言って両手の指を何度か組み換えて辺りの魔素マナを探り始めた。

 クロエの姿が幾重にもブレはじめ、やがて四人にもなる。

「いくぜ」

 四人のクロエが口々に呟いて消えた。

 しかしそれは全て本物で、ソーマによって作られた剣で一斉に飛びかかってくる。

「ッ」


 こんなものでアリエス様の想いに勝てると思うなよ!?


バキンッ


カンッ


ドンッ


ゴスッ


 四人のクロエは大きく後ろへ吹き飛ばされた。

 刹那、空中で回転して勢いを殺し、足をバネのようにしならせて片手でそれを支えた。

「それでこそ勇者だ。だが心構えだけで為せるものではないぞ!」

 言ってくれるな!


ガィンッ


 残された力を片手に集中させたクロエは懐に潜り込み一太刀を浴びせる。


パキッ


「くぅ貴様!アリエス様の遺作によくも!」

 人の姿をかたどっていた衣装の袖がほんの僅かに欠けた。

 ハウザウネ鉱石は込められた想いの強さによってその強度を変える。

 この世界最硬の鉱石だった。

 稀代の芸術家アリエス・ルゥはその鉱石に想いを込めて世界各地に遺物を遺して勇者の出現に備えた。

 アリエスの時代から幾星霜、永く眠っていた石像のソーマはすっかり色褪せていた。

 彼の話によるとアリエス・ルゥは勇者のために鉱石を使って聖剣を打ったこともあるという。

「んならあとの二人は」

 必要ない。

 お前を見てわかった。

「クロエ!」「クロちゃん!」

 遠く聞こえてきた足音と聞き慣れた声。

_とりあえず二人は揃ったな。

 そう思うと痛みと疲れにやられてクロエはその場に倒れ込んだ。

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