第22話サーヤとロディ

「私は何もしていない。やったのはキミだよ。勇者サキ」


 一刻、宙空を舞う疑問。


_!?

 だが、すぐに気づく。

 しまった!

 ウチが攻撃を加えたせいで、アルヴィスに刺激を与えてしまったんや!

 愕然としたサキは、


 でも、この世界に魔素マナなんてあっても薄いもんやし、あんなでっかいゲート拓くほどの力は、、、と分析してみて断念する。


_ファーリアにあってこの世界にないもの、いや元素世界にしかないもの。

「ソーマか!」


 ニヤリと嘲笑うロッドノエル。

「沙希ちゃん遅いよ」

 沙耶の声が耳元で囁く。

 ゾクッとした。今のは沙耶ちゃんであって沙耶ちゃんではない。


 沙耶ちゃんの全身を染める血と鞄に付けたチャーム、それに真樹ちゃんを、、殺した悲しみ、悔しさ、怒りの涙、そこに大地のソーマを吸い上げて使えば、、ロッドノエルの力がなくても或いは、、、


 ならアルヴィスは手遅れでもロッドノエルに止めをさせれば、、、って沙耶ちゃん。


 あかん。沙耶ちゃんも一緒に死んでしまう。

_?

 ところでコイツは何で沙耶ちゃんの体に?

「知りたいか?」

 上から見下ろすように沙耶ちゃんは言う。

_違う。沙耶ちゃんはあんな顔しない。

「教えてやろう」

 軽く首を振って考えを一蹴している間にロッドノエルは答えを被せてきた。


 まず最初に私と沙耶は直系の子孫でな?

 その祖先は太古の昔現代ファーリア人の祖となる旧人類がいたそうだ。


 それが数多の時を経て枝分かれしたものが、私達魔族とファーリア人だという。


「でもそんなら沙耶ちゃんは関係ないんじゃ」

 そうここまでならな?だが、言ったろ直系の子孫だと。


 かつて魔族の瘴気に惹かれ魔族を愛してしまった女がいたと聞く。


 どうもそれが元素世界の人間だったのではないかとな?

「そんなん」


 しかし、魔族も次第に熱が冷め女も冷めて、女は元素世界に帰っていったそうだよ。


 その女はろくに魔力も持たない子供を連れていたとか。

 数ある魔族側の逸話の中でも、この話だけは絵本にまでなって語り継がれている。


 私達の世界ファーリア界全土にな。

 元素世界には恐らく伝わっていないだろうな。


 異世界など存在しないと子供じみたことを言っている者が存在するのだからな?

「大方後から生まれたお前達元世人は現在の都合に擦り合わせて歴史を作り変えているんだろう」

_それ本当なの?

 本当だともサーヤ。

 話が逸れたな?


「ちょい待ち!今サーヤって」

 話は最後まで聞いて貰おうか。

 その魔力なしの子供というのが沙耶の先祖だったと私も後から聞いた。


 沙耶の姿で母親からな。


「沙耶起きてる?話しておきたいことがあるの」

 夜中、沙耶の部屋を訪れた母親はリビングまで連れ出し、魔族のこと、異世界のことを話した。


 沙耶も中でそれを聞かされていた。

「ごめんね。沙耶こんな家系で」

 母親が力強く抱きしめてくれる腕の中で沙耶はずっと泣いていた。

_変わらなくていいのか?


 沙耶にそして母親に聞こえるように尋ねても、二人は揃って首を振り、

「こんな姿は見せられない」と口を揃えた。

 翌日沙耶は私に相談してきたよ。

「どうしよう。私もう真樹ちゃんと一緒にいられないのかな?」

_大丈夫だ。今まで通りやればいいさ。

「おっはよサーヤ!誰と話してんの?」

 屈託なく首に腕を回してきたものだから、

「何だ。聞こえていたのか」

_ちょッロディ、ダメだったら!

「この方が話が早いだろう?」

「お?サーヤ?何面白いことしてんの?私も混ぜてよ」

 私はこの時ばかりは堪えられず笑ってしまったよ。

「ッほらな?」

_!

「後悔するぞ?」「望むところだ!」

 おかげでサーヤと真樹はかけがえのない親友となった。


 後方で既に息の止まった親友を一瞥し、

「サーヤは幸せ者だよ?ありがとう真樹ちゃん」

 今の話で沙耶ちゃん自身はロッドノエルを認めていたことがわかった。

 でも、ウチには俄に信じられなかった。


 もやもやする頭の中を沙耶ちゃんの声が貫いた。

 ご丁寧にロッドノエルはまた沙耶ちゃんの声を!


 それでカチンときたウチは怒りを抑えるのに必死で、

「そんなん知らん!でも色々あって沙耶ちゃんの中にいるいうんはわかった!

でも、借りたもんは返すんが筋やろ!?」


 理解が追いついてこなかった。

_こんなことが言いたかったんじゃないのに。

「何を聞いていた?これは借りているのではない。

私達の体だ」

 覚悟を決めろ。


 先程勇者カナも自分の親友を殺した。

 お前も後輩を手にかける勇気を持て。


_何、、やて?

「嘘や!!!」


 可奈ちゃんに限ってそんなことあらへん!


「実は先頃魔王に謁見を求めた元世人がいてな。

その者が勇者カナの親友であったと聞いている」


 血の気が引いていく音が聞こえた気がした。

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