第三部:魔族の系譜
第20話もう一人の勇者
異世界ファーリアの方で一つ、大きな
「ッ消えちまったか」
「彼女には荷が重かったみたいだね」
「こっちも急がないとな」
都会の只中、彼らは人間に擬態して潜伏していた。
雑踏に紛れるその姿を見咎める者はいない。
彼らの目的は一つ。
魔皇妃ロッドノエルの帰還。
その手伝いだった。
カーン、コーン、、、
通学路、二人の女子中学生が仲良く雑談に興じながら一緒に下校していた。
白を基調とした制服はこの学園の気品の高さを表している。
その制服はこの近郊にある私立ローザリア学園のもので、この地域のみならず世界的にも有名な共学校だった。
教育方針は「キミよ。自由であれ」である。
自分だけで生きてはいけない世の中を教えており、偏差値競争からはやや距離を置いていることでも有名で半ば専門学校のような位置づけでもあった。
「だよねー」
「やっぱさあの二人って」
その学園の生徒の前を遮るような位置に黒いロングコートの男が一人、
「お迎えに上がりました。我が主」
俯き加減なその顔は図り知れず怯えた二人は、
「いくよ?」
ガシッ
先に我に返った友人の方がもう一人の手を取って、男とは逆の方へ走り出した。
友人に手を引っ張られ男を振り切って走るものの距離は変わらず、
この段になってその違和感に気づいたのは友人只一人。
友人に手を引っ張られていた方が不意に男を振り向いた。
しかし、どこか目は焦点を結ばない虚ろなもので、、、
髪もいつもの長さではなくなっていた。
_ついさっきまで短かかったのに。
そういえば本人から相談されたことがあった。
「真樹ちゃん私ね?実はもう一人いるんだよ?」
何のことだかわからず、その時は何も言えなかった。
だが、今ならわかる。
_こういうことだったんだ。
その瞬間心の奥がチクリとした。
薄い飴色の髪を靡かせるほど長くして、
「久しいなクロムウェル。わざわざ元素世界までの出迎えご苦労だった。
他はどうした?お前一人か?」
「ちょッどうしたの!?沙耶ったらそんな声出して!
何かの芝居?」
突然のことに気持ちが追いついてこなかった。
_違う。あれは沙耶ちゃんが言ってたもう一人なんだ。
「いえ、ですが別件で動いております故に」
「そうか。ならば仕方ないな」
「ちょっと!」
「では」
「すまないが、私はまだこの元素体に慣れておらん。
故に、、、」
ずっと掴まれたままだった手を捻り上げて、
「お前の
と真樹に微笑みかけた。
すると真樹の髪の先と捻り上げた手、その爪辺りから光が溢れて、、、
「そこまでよ!」
うわ。こんなん初めて言ったよ。
どうしよう。
それにも構わず元素分解を進める沙耶の姿をした何者かに、、
「待ていうんがわからんのか!」
「そこで待つ理由がない」
取りつく島もない沙耶。
「勇者が待ったをかけてんだ止まれ!」
あぁあ自分で勇者とか言っちゃったし、ちょーイタい子じゃん私。
「お前が勇者なのはよく知っている。
だから急いでいるんだ」
最早沙耶ではなくなった女子中学生を前にやむを得ず剣を構えた勇者サキ。
「沙希ちゃん。助けて、、」
表情はそのままに、沙耶の声だけがその口から漏れた。
「えぇい忌々しいガキめ!勇者サキのソーマを嗅ぎ取ったとでもいうのか!」
魔皇妃は頬を伝う涙にも構わず自分の頭を掻き毟り力で抑え込もうとする。
「逃げてッ」
沙耶はその手を無理やり動かして友人を突き飛ばした。
沙耶の突然の抵抗に
思いがけない力が入った手は真樹の体を何度かバウンドさせてしまう。
「ッ.....」
ほどなくして倒れた真樹の口許から滴り落ちる血に沙耶は
「うぅあぁあぁあぁあ...!!」
「ッいいぞ!これだ!この感情堪らなく心地いい!」
沙耶の体を揺らして堪えるようにクックッと
「さぁ勝負といこうか勇者とやら!」
沙耶ちゃんの体で復活を果たした魔皇妃。
_いやらしい顔作りよってからに。
特に関わりはなかったが、どういう子かは人伝に聞いて知っていた。
「あの子笑うとすっごく可愛いんだ!」
_それだけに余計に腹が立つ!
「いけません魔皇妃様!まだお身体が!」
慌てて止めるクロムウェル。
それに沙耶ちゃんが、
「構わんよ。私には沙耶がついている」
「は?」_は?
沙耶、いや魔皇妃が発した言葉にクロムウェルだけでなく、私も同じ気持ちになった。
だが、それにも構わず魔皇妃は
「彼女は今しも親友を殺してしまった自分への怒りと恐怖でイイ
このままうまくいけば或いは、、、な?」
クロムウェルには魔皇妃が何をしようとしているのか検討がついた。だが、
「しかし、、、」
食い下がるクロムウェルを黙らせるため魔皇妃はこの場の
しかし、沙耶の身長では足りず、つま先立ちになって魔皇妃はクロムウェルの額にキスをした。
魔皇妃の恩恵を受けたクロムウェルの体は輝きを放ちどこかへ消えた。
「へぇまだ余裕あんじゃん」
サキの皮肉を相手にせず魔皇妃は僅かに口元を拭って、
「邪魔が入ったな?」
と振り返った。
「さぁ二人だけの女子会といこうじゃないか!」
巨大な赤紫の焰を翼のように吹き上げて魔皇妃の宴は始まった。
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