第19話再戦そして、、、

ザクッザクッザクッ


 ところで少し前から魔物のものではない足音がしていた。

_後ろ数m。

_足音が軽いな、女か?


 レベル差のためかクロエには聞こえないらしい。

 咄嗟に私はクロエの暗器をスッて後ろに投げた。


カンッカンッ


 硬い音が盛大に響く。

_弾かれた!?

「危ないなぁ」


 グラムフェルトはベリーショートの黒髪を掻き上げて近づいてきた。


_姿が、、元に戻ってる。

 こんな短期間でどうやって、、

「私も負けてらんないのよ」

 貴女を殺すまではッ!とグラムフェルトが残りの距離を詰めてくる。


キンッ


「ッせぇな。人の後ろで。こっちは仲間助けにいくので手一杯なんだよ!」


「それは残念ね?でも貴方に手間は取らせないわ。

そっちは仲間に集中してくれていいわよ?」


「気に入らねぇな。そのお前には関係ないって目」

 あ、何かクロエに火ぃつけたっぽい。

 気をつけて。たぶんキミじゃ勝てないよ?


 さっき戦った時より格段に強くなっているように私には視えた。

「クロエ!クリューをお願い!」


 言いながら呪紋を発動して、短期決戦を挑む。

 あれからそれなりに時間は経っている。

 体の疲れも、、まぁとれた。


_イケるか?

 咄嗟にやったわりには意外なほどすんなりいった。

 髪の色が変わるのと浮遊感は同時だった。


「クロエはクリューをお願い!

クリューとは知り合ったばっかだけど、何かわかる気がするの!

もしクロエの言う通りなら私、説得してみたい!だから」


 思った以上の返答だったのかクロエは一度驚くような顔を見せてから、

「あぁわかった!約束だぜ?」


 グラムフェルトは去っていくクロエを見送って、

「妬けるわね」

 周囲の魔素マナがグラムフェルトを包み吹雪となってその体を凍らせていく。

 次いで辺り一面が凍り果てて、その姿も見る間に大きくなっていく。

_目が青い?


 変身の手順も違うしやっぱ本気なのかな。

 冷たい汗が背中を伝う。錯覚がした。

「それまでに貴女を倒せばいいのね?」

「やれるものならね?」

 私も負けずに巨大な銀糸龍ぎんしりゅうとなった彼女を見上げて挑戦的に嘲笑ってみせた。

 開戦、一回戦目とは違って圧倒的な強さだった。

 私もいくらかレベルが上がっているはずだが、全然比較にならない。

_これは。

 マズい、負けるかもしれない。

 足りない分を補える何かもないし、ホントは根性とか勇気とかそんな曖昧なもので何とかしなきゃいけないかも。

_奇跡ってのもある。

 それに頼るのは正直あり得ない。

「随分饒舌ね?まだ余裕があるのかしら?」

 はは、全然?

 あるワケないじゃん。

 四魔将の本気なんて受け止められる器じゃないのよ私は。

_クァァァァァァァ!

 ボクを出せ?

 ごめん。すっかり忘れてた。

 早速暗唱に入るものの攻勢を避けながらの旋基暗唱はやっぱキツい。


シャッ


 こんなことならストックしときゃ良かったよ。


ダンッ


爪、足、ブレス、、、を持ち前の運動神経で躱し、と危ない!


ゴォォォォッ


 あと少しバックステップが遅れていたらヤバかった。

 相手も苦労しているみたいだけど、こっちは掠りでもしたら終わりだ。

 でも、暗唱は終わったよ。

「おいで」

 やっと出れたというように勢いよく、グラムフェルトの巨大な顎に突撃する不死鳥。

 氷の妃将なので相性はよくないはず。

 突然のことに対応できなかったグラムフェルトはまともにアッパーを食らってしまう。

「ッッッ!」

 流石の四魔将もこれには堪らず、またも変身が解けてしまう。


ドサッ


 高空からしたたかに打ちつけられた体が私の眼の前を転がる。

 その勢いを利用する形で立ち上がる彼女の姿に思わず、

「ホントは人間なんでしょう!?もういいじゃない!」

 私は今一度説得しようとするが、急に温度の下がった声でグラムフェルトは、

「何それ?その言い方好きじゃない」

 ベリーショートの黒髪を掻き毟りながら、

 大体こっちの事情も知らないで無責任よ貴女?

 私は絶対に負けたりしない。

 特に貴女には負けられない!

 龍の姿を失ってなお、向かってくるグラムフェルトに躊躇っている私を、、、

「闘え勇者カナ!この私と!」

 焚きつける声が響いて、

 それで私は正気を取り戻した。


 彼女のどこにそんなソーマが残っているのか、グラムフェルトは龍の時よりも速く動いた。

 終いには私の呪紋も効果が切れて為す術がなくなる。

 その瞬間、グラムフェルトの姿が消えたように霞み、ギリギリの攻防を余儀なくされる。

 わかるのは近くをすり抜ける風と、正面に寄った時の姿がチラ見できる程度だ。

 避けられているのが、自分でも不思議なくらいだった。

 だが、不死鳥にはその姿が視えているらしく、的確に攻撃を当てていく。

 私よりずっと視えていた。

 野生の勘みたいなものもあるかもしれない。

_或いは龍脈を辿って?

 今までレベルによる力押しだった。

 ここらで真剣に龍脈とか意識していかないとこれからの敵には勝てないかもしれない。

 不死鳥が牽制してくれるおかげで何とか視認できるそれを辿ってルート描き、目を閉じて龍脈に集中する。


不思議と風の流れが視え始めた。


敵の魔素マナ、その動きが。


_レベルだけじゃやっぱダメなんだねクロエ。

_これ覚えとかねぇとレベルだけじゃ新しい技閃かねぇぞ?


 闇雲にレベルだけを上げていた私は身につけている技が殆どなく、こういうことでもないと、なかなか覚えない状況にあった。


 視える。

 近づいてきたグラムフェルトの腕を、、、とうとう掴んだ。

「やるじゃない」

 泥だらけのその顔はどこか満足そうで、

「圧倒したまま殺すのは正直ないなと思ってね」

 掴んだんでしょ?

 動きの視方。目で追えない相手の捕らえ方。

 何で剣でトドメを刺さなかったの?

「それは違うと思ったから」

 後悔するわよ?

 言った彼女の姿がかき消えた。


 さらにスピードが上がったのだ。


 だが、今度は視える。

 だから、余計にその速さが実感できた。

 視えているのは殆どが彼女の残した軌跡で、、

 それを断つことで何とかするしかないと思われた。

 ならないかもしれないという不安が過る。


ならないなら。


 ならせるしかない!


パキィィィィィィィィィンッ


 凄まじい火花が散り流石に剣も折れたんじゃないかと思った。

「クァァァァァァァァ!!」

 不死鳥が白熱化して黄色くなっていた。

 そのまま勢いよくグラムフェルトに突撃をかけていく。


ドンッ


 ほのおが剣に燃え移りまるで最初からそういう剣だったみたいに剣は焔を噴き上げた。

「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 気合い一閃。

 両側から挟み撃ちにされたグラムフェルトは、咄嗟に周囲の魔素マナを集めて防御壁を展開するが力負けしてしまう。


 その唇はソーマを口にして気を失った。

_可奈ちゃん。やればできるじゃん。


 今、何か懐かしい匂いがした。

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