第二部:異次元介入

第14話第三勢力

っていうことで、


「終わりだ。そろそろテント戻るか」

 私は精霊に預けておいた剣を片手に立ち上がった。

 何か重要なことを聞き逃した気がする。

_クロエが焚き火に水をかけた。


「俺がクリューと見張りするよ」

 え?という顔をクリューがする。

_聞かされてなかったんだね。

「そんな、、悪いよ!」


 私が食い下がっても、

 いや、気にするな。

 ちょっと別件でな。

 来た道を振り返りながらクロエが言うので、

_?


「任してッ!」

_何のことかわかってんの?

 気合い抜群のクリューの姿がさらに不安を煽った。


 それに肝心な時に勇者カナが動けませんじゃ話にならないだろ?


 その言葉に私は渋々テントに引き下がった。

 私が下がるのを見計らったようにテントの向こうから声がした。

 私はそれを背中で聞く。

「終わったかい?仲間想いだね」


 振り向いて隙間から覗き込むと、亜麻色の髪の少年?少女?

 中性的な顔立ちの人物が立っていた。

 しかし、

_どうして。


 こんなに近づかれて気づかなかった。

 一度もそんな気配は感じなかった。

 ボス、、なの?

「そんなワケないでしょ」


 ボクたちは部外者だよ?

「キミたちと同じねッ!」


キンッ


 少年の攻勢を捌いたクロエの大剣は素材でも違うのか、いきなり欠けた。


「私達と同じ」

 私は呆然とその言葉を呟いていた。

 綺麗な亜麻色の髪の少年はそれには答えず斬りかかってくる。


キンッ


「てめぇ、俺達と同じってことはこの世界じゃよそ者じゃねぇか。何で邪魔すんだよ?」



 少年はクロエの言葉を鼻で嘲笑わらった。

「アレ?知らないんだ?この世界を救う意味がないこと」

_?

 意味がない?


「気づいてると思ったんだけどなぁ」

 呆れた顔をこれでもかと見せびらかし、


「キミらが勇者やってる間にあっちは大変なことになってるんだよ?」


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ


 忘れていたようにクリューの手元でスマホが震え出す。


_いや、何これ助けて!


_可奈ちゃん助けて!


_死にたくないよ!


「キミらのせいだよ?」

 何が何だかわからなかった。

 殺到する元世からの動画には魔物に襲われる同級生の姿が映され、

 それぞれが助けを求めるものばかりだった。


「説明いる?」

「いるに決まってんだろッ!」


 クロエが少年に跳びかかっていった。

「せっかちねぇ」


 その少年の後ろからこそっと現れた喪女に片手で払われる。

 「誰が喪女やねんッ!」


 知らない人にツッコまれた。

 魔法と思われる見えない力でクロエを撃ち落とす喪女。

「ちゃういうとるやろ!」


「僕の方から説明するよ」

 三人目の緑髪。

 片手には長い刀を携えている。

「キミらが召喚されたあの日。

僅かながらこの世界と元世の間に揺らぎが生じた。

本来この手の術式はことが過ぎれば閉じるものだ。

だが、使い込まれた魔法陣、久しく使い手のいなかった古代魔法エンシェントマジック

使い手の技術不足、知識不足、ソーマ不足。

それらも重なりいわば半開きの状態を維持してしまった。

さらにマズイのは誰もそれに気づかなかったことだ。

結果、この世界から帰る方法ならいくらでもあった。

それが今回のような事態を引き起こしていると見られる」


「おかげさまで私達も元世から来ることができた」

 喪女はありがたそうに言った。

 つまり魔物が向こうで悪さしてるってこと?

「正解だよ?」

 亜麻髪は不思議そうにそう言った。


 向こうに帰る方法はあるんだよね!?

 じゃあ帰して!

「それがそうもいかないんだよね?」

「私達は人間の敵だもの」


 何で!人間でしょう!?

「そうなんだよ。

人間だから人間の敵になれるんだよ」

 魔王側の陣営にも召喚された人間がいたらしい。

「何だよ。簡単じゃねぇか」

 お前ぇら倒してとか言わないでよクロエ?

「悪いけど、お前んとこのアルヴィスゲート使わしてもらえねぇか?」

 ばっかやろう!いいよって言うと思うか!?


「いいだろう」

 マジッすか!?

「ただし」

 デスヨネー。

「私達に勝てたらネ?」


「さぁ遊びは終わりだ!」

 戦闘に入る。

 まずは緑髪が叫びとともにナイフを投げてきた。


 咄嗟に私はテントから出てナイフを捌く。


カンッ


キンッ


 クロエに命中するそれを弾き落とした。

 が、勿論それを目眩ましにした緑髪は脇差に手をかけて、走り込み私の懐に、、、


「やらせねぇよ!」

 クロエの大剣がそれを弾き、火の精霊がクロエに加勢する。

「クァァァッ」

 手を出すなと言わんばかりに不死鳥は攻撃的に火を吹いた。

_クリューは?


 こんな時真っ先に出てきそうなクリューがいなくなっていた。

 自分でも顔が青ざめていくのを感じていた。


「可愛いわね。この子」

「離せッ」


 呪紋を帯びた声が私の喉から放たれた時、

『!?』


 その場にいた全員が驚いた。

 私だってびっくりした。


 精霊の言葉を人は発音できない。

 精霊の言葉、つまりは旋基だ。


 それが私の喉から放たれた。

 難しいことはわからない。


 でも、出るワケがないことは漠然とだがわかっていた。

「どう、、やったの?」


 呆然と力の入らなくなった喪女の腕の中でクリューまでも唖然としていた。

「何でもいいがチャンスだろうが!」


 最初に正気を取り戻したのはクロエだった。

 細かい暗器類を投げて、それに紛れるようにして懐へ潜り下から掬い上げるような蹴りを浴びせたクロエは見事に緑髪の延髄を捉えた。


「ッが」

 昏倒寸前で踏み留まった緑髪は、次に暗器に襲われるかに見えたが、、、


「惜しい」

 冷ややかな笑みを浮かべて緑髪の姿が雲を散らすように消えていった。

「外したか」

_外したの!?

 そんなことより、

「何やってんの!クリューはこっちでしょ!?」

「お前どこ見てんだ!緑髪だけ影がなかっただろうが!」

 ありゃソーマでその呪紋をお前が相殺したんだろうが!

 そのせいで実体化したアイツを倒そうとしたんだ!

 でも間に合わなかったと?

「うっせぇ」

「おかげさまで私のメンツ丸潰れ」

 とあっさりクリューから手を離す喪女。

「だからちゃういうねん」

 ちょくちょく素に戻る喪女はうっすら笑って自らも消えようとする。

「待てよ。このままですむわけないだろ?」


 クロエの周りの大気が圧を持ってビリビリと震え出す。

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