第12話暗唱ストック

 ともかくまだ四合目だ。


 山頂を目指す。

 光の輝石。

 そして祭壇へ。


「カナちゃんこのままいくよ!」


 スマホを開いて、、って何してんのソレ!?

 クリューは持っているスマホから地図アプリを開いてそれを拡大、スライドして外に出した!?


 ビニールシートのように辺り一面に広がる地図。

_おぃおぃ。


 そんな機能は確実に私のスマホにはなかった。

_心臓に悪いな。


 クリューに任せるのはやめた方がいいかもしれないな。

 別に分解されてるワケじゃないんだけど、こう度々新機能追加されると身が持たない。


「カナちゃん今いるのがここなんだ」

 話が全然頭に入ってこなかった。


 道案内がうまいのは伝わってきたけど。

_うん。このままにしよう。


 もう増えないだろうし。

「ついてきて」


 アプリを閉じると吸い込まれるように地図はスマホの中に戻っていった。

 そして軽くタップして地図アプリを再起動、脇道の脇道を進んでいくクリュー。


_またおかしなことになってんな。


 画面上ではなく、空中に透けたモニターが現れて先ほどのマップを映してくれていた。

_わぁ見やすい!

 じゃねーよ。


 黙して語らなくなった扉を背にして、私もあとをついていく。

 クリューのマネをして右足をかけ、左手で掴まりながら次のポイントを探す。


 ガレ場というヤツだった。

 大きなゴツゴツした岩が犇めく中をクリューは軽々登っていく。


 またも置いていかれそうになる私。

 クロエが、

「息切れしてんぞ?ちゃんと整えながらいけよ?後が辛いぞ?」


 そうだ。一人増えたんだ。

 いや、減ったのか。

 羊は最後までメェメェ言いながら帰っていった。


 一刻も早く武器を作ると言って。

_頼もしい。


 どんな武器になるのか今から楽しみだ。


ガクッ


 足下の石が崩れた。

「……!?」


ガシッ


 「   」と私が三つほど息を吸う間に、何mかを落ちたと思った。

「大丈夫か?」

 クロエに片手を掴まれていた。


_たしか何の魔法も使えないんじゃ。

 検討違いなことを私が思っていると、

「右足をかけろ」「左足はかかるか?」

 と順番にクロエが指導してくれて、私はことなきを得た。

 その間も私はクロエの利き腕から流れていた血が気になっていた。


 そうして、四合目にたどり着いた時、先に上がっていたクリューが私達を待っていた。


「遅いよカナちゃん!?運動部なんじゃないの?」


 ごめんなさい。

 ロッククライミングは陸上部の範疇越えてます。


 クリューを何とか説得して私はクロエの野営の準備を手伝うことにした。

 今度はクロエばかりに任せずに私も手伝う中クロエが、


「お前何で暗唱ストックしとかねぇの?」

 と呟いた。


 不死鳥とかあんだろ?

「俺はまだレベルも足りねぇしそんな高レベル使えねぇけどさ」


 風で下から押してもらえば良かったのに。


_あ、忘れてた。

 風の精霊使えば良かったんだ。

 威力さえ調整できれば空を飛ぶことだってできるんだ。

 すっかり忘れてた。


 今度からストックしておこう。

「ところで暗唱ストックってどうやるの?」


 ジト目で睨まれた。

 「完成」と手を払ってからクロエは不甲斐ない私の方を向いて、


「旋基、覚えてるか?」

 旋基とは魔法を放つのに必要な魔素マナを集める手伝いを精霊にお願いする言葉で、基本的に人の口はそれを発音できない。


 そのため、頭に思い浮かべてなぞる必要がある。

「それが暗唱だ。そして暗唱はストックしておくことができる。

お前魔法使ってたじゃん」


 あの要領で暗唱だけして放たないの。

 やってみ?


 素直に私は不死鳥の暗唱をしてみた。

 改めて唱えてみると意外に長くて一分半ほどかかった。


_魔法レベルかなり上がったからな。

 上がるのに比例して旋基も長くなる。

「終わったよ」


 ここまでがストックだ。

 んじゃ放つ。

 言われるままに放つ。


 攻撃するワケじゃないからそっと放つと隣にいた。

 羽根を閉じて私の命令をじっと待っている。


 ほら、できただろ?

「ホントだ」

 そういや私道中この子連れて歩いてたな。

 色々と忘れていることが多かった。

「たき火でもするか」


 クロエが拾ってきた木材を組み上げた。

 吹いてみ?

 私は息を、、

「お前ぇじゃねぇよ」

_やっぱり?


 普通に間違えた私はちょっと恥ずかしくなった。

 気を取り直して不死鳥に火を吹くことができるか聞いてみる。

「クワァ」

 できるらしい。

 嘴の先からスプレーのような光を吹いて木材に火をつけた。


 しっかり組まれた真ん中に火をつけた不死鳥はとても満足そうだった。

「よしよし」


 思わず子供にするように頭を撫でてあげると不死鳥は

「クゥゥ」

 首を捻って喜んだ。


 んじゃこれからの作戦だが、、、

 クロエがたき火の灯りを頼りに地面に何やら描き始めた。


「あ、待って」

 クリューをぐっと抱き寄せた私は

「スマホ借りていい?」


 赤い顔でコクコク頷くクリューはミニリュックのポケットからスマホを取り出した。


「このマップに描き込んで」

 描き込みモードに切り替えてタッチペンを渡した。


「珍しいの持ってんな?」

 別にスマホが珍しいワケじゃないと思う。


_ここでコレを持ってるのが珍しいんだ。

 元素世界じゃ当たり前のものだし。


「おやつ食べる?」

 と、クリューがスマホを出したのとは違うポケットからチョコレートを取り出した。


_案外持ってるな。

 ひょっとしたら用意してあったのかも。


 会って間もない私のことを察して用意してくれていた。

_何か恥ずかしいな。

 仕事の合間を縫って手作りの保存食やら何やら用意していたらしい。


 折角なのでつまみながら話を進めていく。

 全部は持ってこれなかったのか、数はそれほどなくレベルアップには至らなかった。


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