カナかなクロニクル リペア

第10話ブラックドラゴンの１ポンドステーキ

「龍のさばき方は？」

　ふるふると首を振ると彼は「わかった」と言って龍の体を器用に横倒しにして、鱗の一番弱い逆鱗の部分に大剣を突き立てた。

　堅い殻は大きな蟹のようで、四苦八苦しながらもクロエは一人でさばいていった。

　一通りさばくと彼は保存食と今食べるように分けて、仕分けが終わった段階で調味液を作り始める。

　まずメインと思われる塊に切れ込みを入れて、

「あ、クロエこれ使う？」

　私が差し出した塩コショウを切れ込みに振りかけた。

　それから調味液に浸けて、別の行程に入る。

「腹減ってるだろ？ちょっと待ってな」

　恐らく入口のモンスターであろう肉の残りを細かく刻んでミンチにして、スープを作った。

　そっちは今渡されて、少し龍肉がしなっとしてきた頃にクロエは温めておいた鉄板に油？のようなものを敷き、焼き入った。

ジュワァァァァッ

　香ばしいいい薫りが立ち上る。

　辺りの雰囲気と相まって、本当にお腹が空いてきた。

　下の火は精霊が、薪とサクラチップ的なものに火を着けたものだ。

_サクラチップはサクラよりちょっと酸っぱい匂いがした。

　これで美味しくないなんてウソだ。

　それより考えてみれば男子に手料理を振る舞ってもらうなんてこれが初めてだった。

　ふわぁと出来上がったドラゴンステーキから軽い香辛料の匂いが私の鼻をくすぐる。

「焼き上がったぜ？」

　まだ保存食の処理が残っているがとりあえず一休みしよう。そう言って丁度いいとこにあった切り株にクロエは座った。

　私は座れそうな椅子を探していたら誰かが運んできてくれた。

　後には涼やかな風が吹き抜けていく。

_あ。

「さっきはどうも」

「何だって？」

_あ、いやクロエじゃなくてね？

　恐らく石を運んでくれたのはクロエではない。

_風の精霊だ。

　石焼きがまだグツグツいう中、食事が始まった。

　そしてこれは王家の紋章が入っていることから皇室のものであろう豪華な食器類。

_どこからそんなものを。

　そこに盛りつけられていく異世界の魔素（マナ）をたっぷり含んだ野菜と先ほど締められたばかりの龍の肉をウェルダンにステーキしたもの。

　できたての料理からも異世界由来の香辛料の香りが漂ってきた。

　向かい合って座る、、とやっぱちょっと照れくさかった。

　恐らくクロエオリジナルの醤油っぽい匂いのするタレ。

　それがさらに食欲をそそる。

「私、男子と一緒に食事するの初めてかも」

　「フッ」と聞こえた。

「俺もだよ。だから気にすんな？」

　「うん」とまだ顔が赤いのを気にしながら頷いた。

　まぁ食え。冷めるぞ？と言ってクロエは自分も食べ始めた。

　私もお箸を進めてみることに。

_このお箸朱塗りだ。

　クロエの私物かもしれない。

　ふわりと香ってくる甘辛いタレは口に含んだ瞬間、静かに広がっていく。

　龍の肉は地鶏のような食感と相まって、

_何これ楽しい！

コリコリ

　多少臭みが残るが、それを敢えて残すことで龍肉の持ち味を引き出すのはクロエの技なのだろう。

「　　　　　」

「そんなにうまいか？」

　気がつくと私は涙を流していた。

「あ、ごめん」

　別に謝ることじゃねぇよ。

　と彼は嬉しそうに笑った。

　暫く黙々と箸を進めること数分。

　「ごちそうさま」まで言って箸を置いた瞬間、物凄い勢いでレベルが上がるのを感じた。

　料理の味や素材の鮮度なども経験値に反映されるのか、クロエの料理は泣くほど美味しかったので、私のレベルは100以上あがった。

_あれ？上限越えてる？

　もしかしたら3桁なのかもしれない。