第7話輝石以外にも

 ところで実はクリューの教えてくれた道筋にはトラップやアイテムでないものもあった。


_もしかして。

 ボスですか?


 脇道にボスですかそうですか。

 随分周到なボスですね?


 一抹の不安を覚えながら私はこぼれ球処理をするのだった。

 輝石の場所に近づいてきた頃、独特の匂いが行き先から漂ってきた。


_香ばしい。


パキッ


 木の爆ぜる音がそれに続く。

_誰かいる?


 暗めの紫のアウター、黒髪、長身。

 羊の向こうに見えた背中はまだ見たこともない人の姿だった。

_何してるの?


 匂いから察するに肉を焼いているんだろう。

_何の?

 嫌な予感しかしない。

_まさか。


 ボスですか!?

 固定ボス食うなよ。

「大丈夫うまいから」


 そういう問題じゃないでしょ!

 もぐもぐしながら彼は私達に近づいてきた。

「知らないの?食べた方が経験値入るって」

 知らねぇよ!

「勿体ないな。こんなにうまいのに」


もぐもぐ


 香辛料をキツめにしてあるのか、肉からも彼からも独特の匂いが漂ってくる。

_できれば近寄って欲しくなかった。


 羊が問い詰める。

「ここらに獣型のモンスターがいたはずなんだけど、知らない?」

 何その世間話。

「あぁそれコイツ」

 犯人は肉を指さした。


_やっぱりかぁ。

 そーじゃないかと思ったけどさ。


_あ、アイコン消えてる。

 仮にも重要なボスなんだよ?

 何か情報聞き出せたかもしんないのに。

「それなら聞いといた」

 だから何でみんな私の心読んでくんのよ!?


 魔物よりこっちのが怖いよ!

「この先に行かせることはできないとかなんとか」


 は?先?

 言われて気づいたのは、立派な扉。


 こんな山のど真ん中に見上げるほど大きな扉があった。


 両開きの扉は豪華で何かを待ち構えるようにそびえている。

「いこっか?」


 軽ッ!

 声が太いからそれほどでもないが、これが女子声だったら友達感覚だ。

 ちょっと高そうなお店に連れて入るみたいな。

_その程度のこと!?


汝、輝石を求め、輝石に求められるものか


!?誰!?


応えよ


扉!?


「どうしたのカナちゃん?」

 思わず呆ける私を羊は角でツンツンしてくる。


_羊モードだと声可愛いなぁ。

 フワフワした角につつかれながら、


「はい!我が名は勇者カナ!輝石を求め輝石に求められし者なり!」


すると厳かに扉は


承知した。では中に入り試練に立ち向かってもらう。

なお、ここから先は勇者のみとする。


_げ?

 レベルとか上がってないんですけど大丈夫ッすか?


 戦闘ッすよね?

 ちょッ「がんばれ」とかそんな他人事みたくクリュー!


「期待してるゼ」

 急にイケメンボイスに変えて羊さんまで!


 いやぁ死ぬ助けて!


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


バンッ


 ほんの数歩奥に進んだところで後ろの扉は見えなくなった。

 濃密な闇。


 後ろどころか前さえ見にくくなってくる中、何故か私は落ち着いていた。


ピチャッ


「ッ」

 それでも真後ろに雫が落ちて少し、息を乱した。

 次第に目が慣れてきた頃、何かの輪郭が浮かんでは消える。


 きっとゆらゆらしているのは動きに合わせて光の加減が変わるからなのではないかと思いはするが、それ以上は無理だった。


 そうして恐怖がようやく追いついてくる。

_何かと目が合うような錯覚。

 それがこんなに怖いと思ったのは初めてだった。

 これが本当の固定ボス。

こんな時に一人きり。


 遠目でこれだけの意力。

_勝てる気がしない。

 初期ダン初期装備で死ぬのか私は。

_せめて、自分の世界で死にたかったな。


「何をしているのですか?」

 前方の龍がなかなか一歩を踏み出さない私に声をかけた。


 いや、何ってこれ以上進んだらイベント入るでしょ?

 したら私殺されるじゃん。


 もう死亡フラグ成立してんですけど!?

「いくぜ!アイツが輝石持ってんだろ?」

 突然隣から声をかけられ、私の心臓は間違いなく一回止まった。

 黒髪?


「黒髪いうな!クロエって名前があんだから」

 クロエか。メモメモ。


 ってか勇者のみなんじゃ!

「俺も勇者だから」


 襟元を見せるクロエの右首筋には見慣れた、でも形の違う紋章があった。

_色も違う。


「お前んとことは違う国に跳ばされたんだよ」

 どうやら彼も私と同じ出身地のようだった。


 なぁんだ他にもいたんだ。

「まだいるぜ?とりあえずは目の前のヤツを倒そう」


 えっとレベルは?

「ヤツは20、俺は16だ。

輝石と肉はお前にやるよ。

入口のヤツでも4レベル以上あがったからな」

 いや、でも、龍の調理とかわかんないし。

「大丈夫だ。俺が教えてやるよ」

_倒せるの?

 レベル足らずだと思うんだけどなぁ。

「さ、いくぞ」

_大剣使いなんだ。

 今気づいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る