第3話勇者カナの旅立ち

 翌朝、私は誰にも告げずに城を抜け出した。


グイッ


「どこいくの?」

 突然隣から裾を引っ張られた。


「ッ」

 たたらを踏んで止まる私。


 私の裾を掴んで離さない幼女の姿がそこにはあった。

 私が困った顔をすると、クリューも困った顔をした。


メイド長不在


 メイド長クリューのいなくなった場内は騒然としていた。

「静かに!緊急事態です!

クリュー様に代わり僭越ながらこの場は私、サリューネ・アーヴァネストが預からせて頂きます!」


ザワザワ


 未だ治まりきらないホールを見渡して、各々に指示を出していく。

 そうして、ある程度場内に落ち着きが戻ってきた頃、


「副長!サリューネ副長!」

 背後の廊下、その奥から慌てて走ってきた同僚の男はその手に何かを握りしめていた。


「良かった。クリュー様の執務室にこんなものが」

 差し出されたのは恐らく一度捨てられたであろうくしゃくしゃに丸められた紙。

 破かないように丁寧に広げると、


「さがさないでください クリュー」

 クセのあるひねた文字でそう書かれ、その上消しては何度か書き直したあとからすると、

_伝えるか迷ってたな?

 しわを丁寧に伸ばして突き返し、

「暫く任せたわよ?」とサリューネは現場を離れた。

_勇者に着いてったな?

 当然バレていた。

 メイド長クリューの行動は簡単に読めた。


 普段の素行に合わせて勇者カナを見る目が人と違うように見えた。

 たしかに勇者はいい人だ。


_でもだからってな?

 仮にも「長」がそんなことでは示しがつかない。

 そう思ったサリューネは連れ戻すことを決意するのだった。

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