第2話魔龍石採掘場

ばふ


「はぁとはいうものの、、」


 つい数日前まで部活動してた私がいきなり皇族勇者か。

 ちょっと前は部屋でだらだらスマホしてたんだよ?


 その私に一体何ができるのか、いくら考えてもわからなかった。


_ゲームならヒントぐらいあるんだけどな。

_誰か攻略本を下さい。


 泣きそうになっていると、


トントン


 霞むほど遠くまで離れた扉は絨毯のような素材でできていて、それなりに強く叩かれた音を吸収してしまっていた。


 それでもどういう原理かここまで届いてしまう。


「はい」

 カナが力なく答えた声も向こうに届いたのか、バンッと重そうな扉を勢いよく誰かが開き、、

 勝手にコケた。


ドタッ


「何やってんの」

 冷めた目でカナはクッションのような枕に顔を半分ほど埋めたまま呟いた。


 この子は数日前私が異世界召喚<?>された時に、王様から私のお世話役を仰せつかっていた子供だ。


_私がされる側なのね。

 まぁ異世界召喚なんて初めてだし、ここの作法とかもあるんだろう。

 他の人から聞いた話だとこの子がメイド長だとか。


_この国大丈夫か?

 不安で頭がいっぱいだった。


 バンバンと別に埃もないのに軽く払ってから、

「へへ、思いっっっきりやったらコケちった」

 テヘペロとでも聞こえてきそうな仕草でその子は言った。

「クリュー」


 げんなりしてカナは

「それで何の用?」

「何だっけ?」


 終始この調子だった。

「もういい私が聞いてくる」

 言って手早く身支度を整え部屋から出ようと、


グイッ


 クリューはふるふると首を振っていた。

_?

 思い出したらしい。


 聞きに行けば間違いなくカナちゃんは捕まる。

 カナちゃんが捕まると二度と会えなくなる。


 そう感じたクリューは焦燥感にかられて、一目散にここまできたと話した。

「詳しく聞かせてくれる?」


 カナはクリューの目の高さまでしゃがみ込んでそう言うと、

 少しだけ目線をズラした。


 目を見て話すのは威圧感がある。

 しかし、安心させるには視線を合わせる必要がある。


 ではと間をとったのがカナ独自のこれだった。

 カナは今クリューの眉下を見ている。


 クリューが落ちつくように優しく両肩に手を添える。

 その背中にゆっくりと息が整っていくのを感じながら、

1

2

3

 と心でゆっくり唱える。


「あ、あの」

 クリューの語った内容は心苦しいものだった。

_そりゃ焦るよね。


 慌てて言いに来るのも頷けた。

 クリューはまだ子供だ。


 残念なところもまだまだ沢山残っている。

 そのクリューがこんな内容を聞いたら、、、



 廊下を歩いていたらうっすらと開いた扉から若い男の怒声が聞こえてきた。

「バカな!あんな小娘に何ができるというんですか!」


 はじめは自分のことで新人と揉めているとクリューは思ったそうで、

「人を見た目で判断するな」


 しゃがれた声は聞き覚えのある声で、いつも自分をフォローしてくれる老獪騎士長。曰くこの国の一番の古参だという。


 彼によると魔龍石採掘場へ勇者カナを向かわせるという話が議会で持ち上がり、新人くんはそれに納得がいかず騎士長に食ってかかっていた模様。


 それにしても、私の知らないとこで知らない話がすっかり決まっていた。

「それで私はそこで何するって?」


ふるふる


_やっぱりかぁ。

 怖くなってそこからは逃げ出したらしかった。


「じゃあ、魔龍石採掘場って?」

「そ、その」


 まずは魔龍の説明からだった。

 魔龍というのは正確ではない。とクリューは言った。


「     」

 余計な口は挟まずクリューのペースに任せる。

 魔龍は元々12石龍というこの大陸の守護龍だった。


 大陸と言っても三つあるものをまとめて守護できるほどだ。


 それほどのものが魔王の強い瘴気に当てられて、ここ数百年の間に次々に悪に染まっていったと言われているらしい。

 これが魔龍。


 これは伝承の記述をクリューがたどたどしく話したものを私が頭の中で編集し直したものだ。


「じゃあ、魔龍石は?」

 敢えて質問を挟んでみた。


 それは一種のパワーストーンのようなもの。

 龍達の心臓のような働きをしており、要するにリットミールのような?役目?って何?

 リットミールがわからないんだけど?

_まぁあとで聞くか。


「じゃあ、12石龍は?」

 改めて12石龍を聞いてみたら、


 大昔からいるキレイな石のドラゴン!

 ここだけはつらつと話されてもなぁ。


 うん。

 大体わかった。

 12体いる守護龍だということはわかった。

 そしてそれはもう殆ど存在しないかもしれないことも。


「わかった。ありがと」

 くしゅくしゅと頭を撫でるととても嬉しそうにする犬、、、じゃないやクリュー。


 ふわふわの毛並みは触れているこっちまで気持ち良かった。


_ホントに犬みたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る