宇宙の始まりと世界の根源

「それじゃ、説明してあげるよ。この創造神様直々にね。」

 創造神を名乗る白髪の女がそんなことを言うと、周囲が光で満たされ、私は思わず目を瞑った。


 光が収まってきたようだ。ゆっくり目を開ける。

 ここは……どこだ?光が存在しない空間?無重力のようだし、上下左右の感覚がなくなりそうだ。

「これが宇宙の始まりの直前。……に似せて作った空間。実際の宇宙はもっと遥かに大きいんだけど、そんなの作り直そうとしたらまた140億年くらい寝ちゃいそうだからね。」

 後ろから声が聞こえた。振り返ると、いつの間にかちゃんと服を着ている創造神が居た。彼女は私と手を繋いでいる灯を見て言った。

「どう?こんな場所にたった一人で放り出されたとしたら、怖い?」

「……えっと…………わからない。」

 急に話を振られて困惑したようで、灯はすごく小さな声だ。

「あはは、そりゃそうだ。実際にやってみるまでは何も分からない。当然のことだよね。」

 創造神は右手を高く掲げた。

「それじゃ、宇宙の創造だよ。」

 再び目が眩むような光で視界を奪われる。


「さっきのがビッグバン。宇宙の産声。残念ながら、宇宙創造で力を使い果たしたせいで私は眠ってて、実際に見ることはできなかったんだけどね。」

 生まれたての宇宙を見ている彼女の目は愛しい子供でも見ているみたいに見える。


「そして、太陽系が誕生し、地球が生まれた。」

 光景が目まぐるしく変化し、いつの間にか私たちはマグマの上に居た。

「生まれたての地球だね。ここから冷えて固まって、降り続く雨は豊かな海を形成する。」

 再び視界が加速する。マグマは一瞬で固まって大地となった。その後、降り続く雨が凹んだ部分に集まって広大な水溜り――海になった。

 海の中で誕生した原始の生命はやがて複雑に進化し始める。その一部は上陸を始めた。陸上に適応するように進化した生命たち。その中に誕生した、複雑な思考を可能とする二足歩行の生物――ホモ・サピエンス。

 彼らは長い時間――宇宙からしたらほんの一瞬の出来事なんだろうが――をかけて、科学を発見する。物理学、化学、生物学、天文学……。それらを利用して人間は社会を豊かにしていった。


「私が起きたのはこのあたり。」

 どこかの部屋の中みたいだ。今のものではない。かなり昔のものか?だいたい……西暦2000年くらいの文化だろうか。

「立花ゆかり。起きた私が最初に会った人間。ここは彼女の部屋を再現したものだね。私のルーツの一つと言える。彼女にもらった名前が、”ゆき”。彼女と暮らしていて人間のことが、この星のことが好きになった私は、朝倉悠綺ゆきとして人間社会で生きることにした。」

「朝倉……?」

「そう。私は、朝倉の始祖。あなたの先祖にあたるわけだね。灯ちゃん。」

 マジか、というのを最初に思った。灯の先祖は創造神だったわけだ。それどころか、これまで朝倉瑞姫やら朝倉麗理華やらの存在を聞いていたが、もしかしたら、彼女たちも……?

「そして、朝倉になるときに作ったのが神の継承権。いつか、この世界が神を欲するようになったときのために、神の力を継承できるようにした。あなたたちはこれを使って神を造ったんでしょ?」

 その通りだ。私の肉体を神の器とし、神の継承権を持つ灯の魂を神とすることで神を創造した……はずだ。

「だったら、なぜ私たちはここに居るの?って聞きたいんでしょ?」

 なんだこいつ、思考が読めるのか?

「神を造ることには成功したみたいだね。実際、物理次元に神は降臨した。でも、その人格は朝倉灯のものじゃない。神の力を司っている、通称”神の能力”。私も驚いてるよ。あの子が我儘するようなのは初めてだから。」

「我儘……?」

「これには世界の歴史が関わってるんだ。世界は何度も終わっては再創造という歴史を繰り返してきた。終焉までの道筋が違えど、いつか世界が終わって再創造されるというのは同じ。もう一つ、全ての世界に共通しているのが、創造神の存在と世界のレイヤーの最深部に存在する神の能力。まず、神の能力から力を引き出した創造神が世界を始める。その世界は必ず終焉が訪れるもので、必ず終焉をもたらす者が発生する。それが、次の世界の創造神となる。次の世界では元の世界で創造神だった存在は神の能力となる。その時、元の世界の神の能力は消失する。これは完全な消滅で、復活とか再誕とかはあり得ない。……ここからは推測だけど、神の能力あの子は消滅したくないんだと思う。だから、世界を消滅させて再創造しようとするあなたたちを邪魔したんじゃないかな。」

 世界の終焉と創造に関わる、終焉をもたらす者、創造神、神の能力の関わり。世界を終わらせたくない神の能力、世界を作り替えたい私たち。

 ……ともすれば、

「あなたはどうなの?」

 朝倉悠綺に聞いた。

「どうって……?」

「この世界を終わらせたくないのか、終わらせたいのか。」

「中立はダメ?」

「……中立は、なしで。」

「うーん、困ったなあ。私としては、せっかく作った世界を終わらせるのは勿体ない気もするんだけどね~。でも、この世界もいい加減にガタが来てると思うんだ。多分、私がここでこんな生活をしてるせい。」

「そういえば、ここは何なの?」

「名前を付けるとすれば、アースガルズ、アガルタ、高天原とか……神の王国?最初は私が余生をゆっくり過ごすために作った場所だったんだけど、私が居ることと、物理次元から超越しているっていう特性のせいで色々な信仰が集まってよくわからない状況になってるの。だから、私もオーディンだったりヤハウェだったりアッラーだったり天之御中主神アメノミナカヌシノカミだったり。私がここに来る以前の宇宙は純粋な物理法則の世界だった。でも、私が信仰の核になったせいで魔術の力が増してきたみたい。あなたたちの知ってる人工天使だって、本来は生まれ得ないものなのに私のせいで作ることが可能になっちゃった。それと、私が毎日暇つぶしにオナニーばっかりしてるから、多分あなたの物語は色欲の成分が多めになってると思う。……そろそろこの世界を作り直すべき時期なのかもしれないね。」

 オナニーがどうとかのくだりは本当に意味が分からないが、この世界がぼろぼろということは創造神自らも認める事項のようだ。

 それならば。

「それなら、私を手伝ってほしい。世界の再創造の続きをやる。」

「……いいけど、肉体はどうするつもり?神の能力の暴走のせいであなたの肉体は木端微塵だよ?」

 は?と言いそうになる。

「……どういうこと?」

「神への昇華が完了したのと同時に、灯ちゃんの魂はあなたの肉体を追い出された。それと入れ替わるように入った神の能力によって神の力が暴走、大爆発が起きた。当然爆心地となったあなたの肉体は焼失、周囲に居た人も……。」

 まさか。

「天使たちと、琉吏さんなら……」

 悠綺は無言だった。

 口を開くが、言葉が出てこない。どう言えばいいのか、分からない。

「やろうよ。」

 灯だった。

「このままじゃ誰も救われない。私がこの世界を終わらせる。」

「でも、神の器がないと灯は……」

「だから、神の器を作る。……私、全能の神なんだよ?」

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