アカリ

 朝倉悠綺は「ガイドを用意した」と言っていた。言われるがままに街の外に出ると、彼女はいた。白髪で碧眼の少女だ。灯とそっくり……というか、その顔は全く同じだった。

「お久しぶりです、恵吏さん。そして、初めまして、灯さん。」

 口調と雰囲気で分かる。彼女はアカリだ。朝倉灯ではなく、AIのACARIの人格として形成された少女である。

「積もる話は多いでしょうが、道は長いことですし、歩きながらでも。」


「ちゃんとお別れを言えなかったこと、後悔していたんです。」

 私の前を歩くアカリが言う。

「創造神様には感謝しています。魂の次元の狭間で彷徨っていた私をここに連れてきてくれただけでなく、こんな計らいまでして頂きました。せっかく作ってもらった機会に、改めて言わせてください。……決して長くはない期間でしたが、一緒に過ごすことができて良かったです。」

 彼女も笑うことができたんだな、と思った。灯とそっくりな、はにかんだ笑顔だった。

「……ごめん。私はあなたを守ってあげることができなかった。」

「いいんですよ。……私は本来、存在するべきでないものだった。AIのACARIは誕生することはなく、あなたと朝倉灯さんが離れ離れになることなく暮らすはずだったんです。あなたが気に病む必要はありません。」

 そんなの嫌だ。そんなの独りよがりだ。私のこの感情はどうすればいい?私は……多分……アカリのことが好きになってしまった。でも、こんなの灯の前で言えるわけがない。

 辛い。私は灯のことが好きだから自分に居場所はないと思っているアカリを否定することができないのが辛い。……最低な女だ、私って。こんなのただの浮気でしかない。


 森の中に入った。

「この先の洞窟です。その一番奥が物理次元と通じています。」

 さっきから全然会話が続かない。アカリは気を遣っているのか色々話題を提供してくれるのだが、私は適当に相槌を打つくらいしかできない。ここで離れたら、多分、アカリとは二度と会えない。それなのに本心を伝えられない自分がもどかしい。


 洞窟の入口が見えてきてしまった。結局、私はヘタレで終わってしまうのか。最後くらいちゃんと挨拶しなきゃな、と思っていた時だった。

 洞窟に入った瞬間、足元の岩が崩れ落ちた。

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